さいたま市P協はなぜ反対意見を表明したのか
日本中で大ブーイングが湧き起こった、埼玉県の虐待禁止条例改正案。幸い取り下げとなりましたが、子どもだけでの留守番や登下校、公園遊びなどを禁ずる内容でしたから、もし可決されていれば、保護者はもちろん、学校や学童の関係者も大変なことになったでしょう。いやはや、ぎょっとしました。このとき、反対意見を表明して脚光を浴びたのが、さいたま市PTA協議会(以下、市P協)でした。同市P協は、条例改正案が委員会で可決された10月6日にホームページで反対意見を表明のうえ、署名活動をスタート。集まった署名2万9000筆を自民党県議団などに提出し、新聞やテレビなどで報じられました。
一般的に、PTAの連合組織(P連)は毎年決まった活動を繰り返すのみで、今回のさいたま市P協のような意見表明を行うことは、あまりありません。たまにそういったことが行われても、執行部の独断ということも多く、ほかの保護者から反発を招きがちです。
例えば2020年春、コロナ禍で「9月入学」の導入が検討された際は、保護者らの賛否が拮抗(きっこう)するなか、日本PTA全国協議会が早々に「慎重な検討を要請」したため(事実上の反対意思表明)、全国の保護者、PTA関係者から反発の声が上がりました。
今回の条例改正案は、幸か不幸かほぼ全保護者が「反対」で一致できる内容だったので、そういった反発は少なかったのですが、同市P協はどんな経緯で意見表明を決めたのか。執行部の独断に陥る危険はなかったのでしょうか?
モヤモヤと気になったので、以前から面識があった、さいたま市P協の副会長の1人、今川夏如(なつゆき)さんに経緯を聞かせてもらいました。
執行部以外の意見を聞くことも心がけた
条例改正案について、市P協で最初に情報を流したのは今川さんでした。10月4日、自民党県議団が埼玉県議会に改正案を提出した翌日、新聞記者から今川さんに連絡が入り、「こういった条例案が出ており、保護者のコメントが欲しいから、PTA会長の知り合いを紹介してほしい」と言われたのです。記事を読み改正案の中身を知って、「なんだこれは!?」と驚いた今川さんは、すぐ市P協の会長や副会長、理事のメンバーに情報共有しました。すると会長の郡島さんも即座に「これはおかしい」と反応し、ほかのメンバーも「協議会として反対意見を表明すべきだ」と意見が一致したのでした。
そこでまずは、それぞれ周囲の保護者らに声をかけて意見を集め、集まった意見をもとに今川さんが意見の素案を取りまとめることに。翌6日には、市P協で緊急のオンライン会議を開き、署名活動を行うことを決定したということでした。
なるほど。市P協としての意見をとりまとめる前に、執行部以外の人からの意見も聞いた、というのは大事なポイントでしょう。
ここを省いてしまうと、執行部の意見が「保護者みんなの意見」ということにされやすく、そうなると今回だって、執行部のメンツによっては「条例賛成」の意見表明が行われた可能性もゼロではありません。
今川さんによると、現在のさいたま市P協のメンバーは、会長の郡島さんをはじめ「保護者みんなの意見を聞くこと」を心がけているといいます。今回も、まずは各PTA会長が身近な保護者や子どもの声を聞き、それを各区の理事さんが集め、市P協に持ち寄ってもらったということです。
「会長さんたちは、日ごろから一般会員の声や意見を聞いて活動していることが大事ですよね。今回も、そういう意識がある会長さんからの声がすぐに入ってきました。逆にいうと、そこをやっていない会長さんからは、たぶん声が上がってきていないと思います」と、今川さん。
正直なところ、ちょっと意外でした。筆者が前回今川さんの話を聞いた4年前の印象では、さいたま市P協はどちらかというと昔ながらのP連で、「みんなの声を聞く」といった発想はなさそうだったからです。聞くと、今川さんが市P協を離れていたコロナ禍の間に、執行部を含めメンバーがほぼ入れ替わっていたということでした。
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