「夫を不倫相手と別れさせたい」「束縛の激しい彼と別れたい」そんな願いをかなえるのが“別れさせ屋”の存在だ。インターネットで検索するだけでも複数のWebサイトがヒットする。この“別れさせ屋”に法的な問題はないのだろうか? 弁護士に聞いた。
別れさせ屋とは?
「別れさせ屋」とはその名の通り、“別れさせる”プロ集団のことだ。「別れさせ屋」と検索すると多くのWebサイトがヒットする。URLに飛ぶと、別れさせ屋を利用した人たちの感謝の声が並ぶ。「夫の浮気が解消しました」「その後の夫との関係も考えたうえで工作してくれました」など……多くの依頼者は既婚女性のようだ。依頼者の年齢層は20~50代と幅広い。
別れさせ屋を利用する人は、2パターンに分かれている。1つ目は自分が「別れたい」場合、そしてもう1つは、誰かを「別れさせたい」場合である。
依頼主からの依頼を受けた「別れさせ屋」の工作員は、対象者の身辺調査を行い、対象者に“接触”。関係性を構築していきながら、別れさせる状況に持っていくというのだ。
そもそも「別れさせ屋」というもの自体、公序良俗に反しているように思えるが、法的な問題はないのだろうか。よくあるケース別に男女問題に詳しい尾崎聖弥弁護士に聞いた。
性行為をする場合、違法の可能性が高い
■CASE1:妻(夫)と別れたい場合妻と別れたい夫から依頼を受けた「別れさせ屋」は、妻の好きな異性のタイプを夫から事前にヒアリングし、ある芸能人似の男性Aを工作員として派遣した。男性Aは「一目ぼれしました」と妻に接触し、最終的に肉体関係に持ち込んだ。夫は、妻と男性Aがホテルに入っていく現場を不倫の証拠写真として押さえ、妻に離婚を突き付けた。
この場合の法的問題点はあるのだろうか。
尾崎弁護士「このケースについては、別れさせる手段として性行為を利用しており、また別れさせ工作を行う対象が既婚者であるという点で、違法となる可能性があります。
対象者を誘惑して性行為を行い、不倫をしたとして交際関係を終了させようとした場合、これは依頼者から金銭をもらって性行為をしたといえるので、売春防止法違反となる可能性があります。
さらに、別れさせようとする男女が夫婦であった場合、恋人である場合とは違い、民法上の婚姻関係として保護されていますから、第三者が介入すれば違法となる可能性が高いといえます」
「食事などの範囲にとどまる」場合は違法とならなかった裁判例も
■CASE2:元恋人と今の彼女を別れさせたい元恋人と復縁したい女性が、「元カレと今の彼女を別れさせたい」と、別れさせ屋に依頼。
依頼を受けた女性工作員Aは、元恋人の現在の彼女BにInstagramを通じて接触。Bと意気投合し、何度も食事をする仲に。食事をしながら工作員Aは、依頼者の元恋人の悪い情報をBに吹き込み、別れを告げるように仕向けた。
この場合は、違法にならない可能性があると尾崎弁護士は話す。
尾崎弁護士「このケースについては、別れさせる手段が会話レベルであり、また別れさせ工作を行う対象も未婚者なので、違法とはならない可能性があります。
なぜなら過去の裁判例では、独身同士で食事などの範囲にとどまるコンタクトをした場合について、違法とならなかったケースがあるからです。
これが対象者に対して暴力を使ったり、弱みを握ったりして、交際関係を終了させるように迫った場合であれば、暴行罪や脅迫罪、強要罪として犯罪になるでしょう」
別れさせ屋に頼む人は、一定数存在する
「別れさせ屋」、名前はたまに耳にするものの、筆者が取材をしていても、実際に依頼したという人には出会ったことがない。しかし、多くの業者が存在しているのが事実だ。ためしにSNSで「別れさせ屋」と検索してみる。すると「頼んでみようかな」と悩む女性の投稿がいくつかヒットした。多くは夫が不倫相手と別れるように仕向けたいといった切実なものだ。
しかし、それに交じって、CASE2のような新しい彼女がいる元恋人と復縁したい女性が「別れさせ屋」に実際に依頼し、復縁に成功した、といった投稿が目に入った。投稿についたたくさんの“いいね”を見て、思わずゾッとしてしまう。復縁した元恋人が知ったらどう思うのだろうか……。
「別れさせ屋」を利用する理由はさまざま。しかし、それでトラブルになった事例も多い。
できれば“別れさせ屋”とは無縁の人生を送りたいものだ。
この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。