テレビやショーで活躍するドラァグクイーンたち。華やかで面白く、気高いイメージを持っている人もいるかもしれません。そもそもドラァグクイーンとはどのような存在であり、社会の中でどのように認識され、バックラッシュの歴史の中で闘ってきたのでしょうか。
LGBTQライターでもあり、ドラァグクイーンとしての経験も持つ筆者が、ドラァグクイーンに関する基礎知識や、歴史、意義について詳しく解説します。
そもそも、ドラァグクイーンとは?
厚く塗ったアイラインの上に長いつけまつげを何枚も重ね、スパンコールのドレス、あっと驚くようなド派手な衣装をまとい、山高帽より高いウィッグ(かつら)をかぶり、10センチを超えるハイヒールを履いてミラーボールの下でパフォーマンスするドラァグクイーン。今ではテレビなどでも活躍していますし、地方でディナーショーなどのイベントも開催されていますね。たぶん、“きれいな格好をしたオネエタレントのような人”、というイメージをお持ちの人が多いのではないかと思います。ですが、第一義的には、ドラァグクイーンとは、ゲイのクラブパーティーを華やかに彩る、過剰な女装をしたパフォーマーのことです。Drag Queen(ドラァグクイーン)の名前は「(ドレスの)裾を引きずる」という意味に由来しています(drag=引っ張る、引きずる)。日本ではdrug=ドラッグ(薬物)との混同を避けるために「ドラァグ」という表記が用いられています。
フェイクの美学、過剰な女性性、ド派手なゴージャスさを楽しむ
ドラァグクイーン特有のメイクのスタイルは、まずアイラインの幅。異様に太く、1センチを余裕で超えます。その上に長めのつけまつげを何枚も重ねてつけ、目の下には白いラインを描き、そこにも何枚もつけまつげをつけます。眉毛をつぶし、実際の眉毛の上にアイブロウを描き、目と眉毛の間にはダブルラインと呼ばれる「二重まぶた」のデフォルメのような独特なラインを入れ、実際の唇からはみ出すくらいリップを塗って、その周りを黒く縁どる……など、それらは決してナチュラルメイクではありません。
女性に見えるような自然さではなく、フェイクの美学、過剰な女性性、ド派手なゴージャスさや奇抜さを楽しむカルチャーです。このようなノリを「camp(キャムプ)」といいます。
ドラァグクイーンはゲイの人物が始め、クィアなシーンで発展してきたカルチャーです。よって、基本的にドラァグクイーンはゲイ(またはトランス女性)なのですが、そのスタイルやカルチャーに共鳴した女性(ごくまれにストレート男性)などもドラァグクイーンになることがあります。その際、ドラァグカルチャーへのリスペクトとして、上記のような定番のメイクのスタイルが踏襲されます。ドラァグクイーンらしい、キャムプな装いも必須です。
クィアとは、性的マイノリティを総称する言葉
ちなみに、クィアとは性的マイノリティを総称する言葉の1つです。クィアはもともと侮蔑語だったのですが、1980年代のエイズ禍に苦しめられたコミュニティの人々が、それを逆手に取り、抵抗運動や連帯の合言葉として用いるようになったという経緯があります。実は1960年代まではゲイが総称の言葉だったのですが、今はゲイというと男性同性愛者を指す意味になるので、ここはゲイだけじゃなくトランス女性なども一緒だったという意味で、クィアを使っています。
レズビアンなどクィア女性のシーンでは、スーツを着て、ひげを描いたりして男性性を過剰に演出する「ドラァグキング」というパフォーマーが登場することもあります。
日本では昔からゲイバーで、ママが女装して接客したり、周年パーティーで女装したりという伝統文化がありましたが、1980年代末にドラァグクイーンカルチャーが入ってきて、1990年代からだんだん新宿2丁目で両者が混ざり合い、独自の文化が形成されていった印象です。
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