ドラァグクイーンとはどんな存在? なぜ「ドラァグ」なの? 歴史や意義を“ドラァグクイーン本人”が解説

ドラァグクイーンとはどのような存在であり、社会の中でどのように認識され、バックラッシュの歴史の中で闘ってきたのでしょうか。ドラァグクイーンとしての経験を持つ筆者が、ドラァグクイーンに関する基礎知識や、歴史、意義について詳しく解説します。

ドラァグクイーンの興隆と、バックラッシュの歴史

自らもドラァグクイーンであり、音楽学の博士号も持つレディ・Jによると、「drag(ドラァグ)」という言い回しが初めて使われたのは、1860年代のビクトリア朝のイギリスだといいます。当時の劇場などで活動していた2人組のパフォーマー「ボルトンとパーク」のアーネスト・ボルトンは、女性の衣装に身を包んだ自身の演技を「ドラァグ」と称していました。2人が演技をする際、ペチコートの裾を床に引きずっていたことに由来するといわれています。

19世紀末のアメリカ、ボードビルショーで女性になりきる芸が流行した時代、ウィリアム・ドーシー・スワンは自らを「the queen of drag」だと名乗りました。これがドラァグクイーンの起源だとされています。スワンは1880〜1890年代に「Drag Ball」をワシントンDCで開催し、女装していたというだけで何度となく警察の摘発を受けました。

1888年、自身の30歳のバースデーパーティーにも摘発があり、スワンは警官に対して「礼儀というものを知らないのね」と言って抵抗しました。これがLGBTQの歴史における初めてのプロテスト(抗議)だといわれています。結局、スワンはその場で逮捕され、10カ月も拘留されたそうですが、当時のクリーブランド大統領に減刑を求める手紙を書いています。LGBTQが大統領に物申したのもこれが最初です。
 

ドラァグクイーンはプロテスト(抗議)の始祖

1900年代にはワシントンDCで女装が違法とされ、「Drag Ball」はサンフランシスコ、シカゴ、ニューヨークなどの地に移っていきます。1920年代の禁酒法の時代になると、ニューヨークのハーレムやグリニッジビレッジの「Drag Ball」のショーは、ストレートにも(酒の「つまみ」として)人気を博すようになりました。

1930年代には「Pansy Craze(パンジークレイズ)」と呼ばれるドラァグクイーンブームが起こります。パンジーは当時、女々しいタイプのゲイをやゆするようなスラングでした。ドラァグクイーンはニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、シカゴなどで人気を博し、新聞などでも紹介され、広く認知されましたが、バックラッシュも起こりました。第2次世界大戦が始まると、保守化した社会でドラァグは認められなくなり、「Drag Ball」は地下に潜ったのです。
 
戦争が終わって1950年代に入っても、クィアに対する抑圧やバッシングはなくなりませんでした。ゲイの若者が殴り殺される事件が相次いだニューオーリンズでは、地元のゲイたちが結束し、プロテストとして地元のお祭り「マルディグラ」に参加する「クルー(連)」を結成。「ストレートへの当てこすり」として伝統的・貴族的な様式をパロディにしたド派手な衣装を見せつけるようなスタイルでカーニバルを練り歩きました。

1962年には初の「Ball」を開催。ドラァグクイーンが次々に「生涯で最大の」コスチュームで登場し、観客はフォーマルなタキシードでそれを鑑賞していました。しかし、場所が小学校だったために、パトカーがやってきて、逮捕されたそうです。
 
 『LGBTヒストリーブック』という本によると、有名なストーンウォール暴動以前にも、ロサンゼルスのクーパー・ドーナツや、サンフランシスコのコンプトンズカフェテリアで小さな暴動がありました。いずれもドラァグクイーンやトランス女性がカフェでお茶をしていたら逮捕されそうになり、警官にお皿を投げたりして抵抗したという事件です。

そして1969年、有名なストーンウォール暴動が起こり、ゲイ解放運動が世界的規模で広がるブレークスルーとなります。ストーンウォールの英雄として称えられるのが、マーシャ・P・ジョンソンというドラァグクイーンと、シルヴィア・リヴェラというトランス女性です。最初に「ハイヒールを投げた」人物というよりも、暴動の直後に「ゲイ解放戦線」を立ち上げたリーダーでした。
 
このように、ドラァグクイーンこそがプロテストの始祖であり、PRIDEの象徴です。だからこそ、世界中のプライドパレードでドラァグクイーンは主役を張り、リスペクトされているのです。
 
>次のページ:日本において、どのようにしてドラァグクイーンの文化が広まったのか
 
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