津田塾大学は6月23日、多様な女性の在り方を尊重することを基本方針とし、2025年度入試よりトランス女子学生の受験資格を認めると発表しました。これに対して、「トランスジェンダーに配慮し過ぎて、女性が過ごしにくくなっている」「いっそのこと共学にしたら?」などといった批判の声が上がっているようです。
本記事では、トランスジェンダーにまつわる偏見や誤解、思い込みを解きほぐすように解説します。
そもそも、トランスジェンダーとは
トランスジェンダーとは、出生時に割り当てられた性別とジェンダーアイデンティティ(性自認)が異なる、出生時に割り当てられた性別ではない性別で生きたいと強く願う、または現に生きている人たちのことです。
人が性別を判断されるのは、出生時。お医者さんが外性器などの違いによって男の子/女の子だと判断し、出生届に性別が記入され、戸籍にその性別が登録されるといった流れが一般的です。
しかし、トランスジェンダーは、その「出生時に割り当てられた」性別に違和を覚え、自分は男性じゃない/女性じゃないという思いを強く持ち、女性として生きたい/男性として生きたい(あるいはどちらでもない性別として生きたい)、この体は間違っている、といった「性別違和」にさいなまれます。その結果、社会的性別(ジェンダー)や法的性別を変えたいと感じたり、自身が望むジェンダーで生きようとしたりするのです。
ちょっと前まで、トランスジェンダーの説明として「心の性と体の性が一致しない」という言い方がよく用いられていましたが、今では「出生時に割り当てられた性別がジェンダーアイデンティティに一致しない」とされています。
ジェンダーという性差の認識は子どもの頃から周囲の人たちとの関係(差異の体系)の中で社会的に獲得されるものですが、「心の性」という言葉には“自分1人で決められる”というニュアンスがあり、あたかも自分勝手に変えられるようなものであるとの勘違いを生みやすいのです。
また、「体の性」も、実際は身体的特徴は変えられるにもかかわらず、“変更不可能”であるかのような印象を与える、という理由から、このように言い換えられました。「出生時に割り当てられた性別で生きなさい」という命令は、トランスジェンダーにとって「間違った課題」です。こうした基本情報については、『トランスジェンダー入門』(著:周司あきら、高井ゆと里/集英社新書)に詳しくまとめられています。
社会の「男性として生きろ/女性として生きろ」という命令が重圧に
シスジェンダー(出生時に割り当てられた性別と性自認が一致している人)であっても、世間が押しつけてくる男らしさ/女らしさの規範が息苦しいとか、嫌だなと感じる人は一定数いると思います。しかし、トランスジェンダーはもっと根本的に、社会の「男性として生きろ/女性として生きろ」という命令に苦しんでいるのです。
例えば、もし男性を自認しているあなたが、スカートをはくことを強制され、職場ではヒールやメイクを推奨され、“女らしくない”振る舞いのあれこれをみんなから注意されるような生活を強制されたら、どう感じるでしょうか。女性として生きたい/男性として生きたい(あるいはどちらでもない性別として生きたい)というのは人格の根幹に関わることなのに、不本意な性別で生きることを一生余儀なくされるとしたら……それは、本当に絶望的なことなのです。
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