メタフィクション的な演出で、あえて“冷めさせる”セリフも
あくまで個人的に好きな箇所として、半ば“メタフィクション的な言及”があることにも触れておきます。ティーザー予告編の最後で、ルフィが「強ェやつは技の名前を叫ぶんだ」と言ったことに対して、ゾロは「しねェよ」と冷静に答えるのです。これは、漫画やアニメでは“ケレン味”たっぷりの燃える演出となる「必殺技の名前叫び」が、実写では違和感というか、気恥ずかしさが出てしまう問題に対して、あえて“冷めさせる”ためのセリフなのでしょう。
ゾロだけでなくほかの仲間たちも、ルフィの良い意味で過剰なポジティブな言動に対して(原作でもそうではありますが)どこかクールな印象があり、それは「実写化」そのものへ没入しきれない受け手の気持ちも踏まえたもののようにも思えます。
もしも、その“冷めさせる”セリフを踏まえて、それでもなお本編で熱い展開やアクションで『ONE PIECE』のファンを熱狂させることができるのであれば、この実写化は大成功と言えるのではないでしょうか。
原作者が関わってこそのクオリティの追求
さらなる期待が寄せられるのは、前述したキャスティングに限らず、原作者の尾田栄一郎がガッツリと作品のクオリティに関わったことが分かるメッセージを打ち出していることでしょう。「この作品にいっさいの妥協はありません!!」「撮影が終わってるのに『ここ、面白くないから世に出せないです!』って事で、再撮影してくれたシーンもいくつもあります」とまで語られているほか、「たぶん公開されたら、あのキャラがいない!あのシーンがない!原作と違う!って声が一定数聞こえて来るハズですが、それも愛ゆえという事で、僕はそこも楽しむ所存です!笑」とまで語っているのです。
これらのメッセージからは、「どうしたって全てのファンが望む通りの内容にはならないけど、それも原作者を含む作り手が、最善を尽くして世に送り出している」という気概が大いに伝わります。少なくとも、そこには『ONE PIECE』という作品への愛情がたっぷりと込められているのは間違いありません。
井上雄彦が監督と脚本を務めたアニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』や、原泰久が脚本に参加した実写映画『キングダム』シリーズなど、「原作者がガッツリと関わる」ことは、成功する映画化&ドラマ化作品において、この先も1つの大きな指針になるのかもしれません。
一部で不評の声ももちろんある、それでも……!
ここまで実写ドラマ版『ONE PIECE』が予告編の公開時点で好評の理由を挙げてみましたが、一方で不安や不評の声もいくつか見られます。「一部のアクションが“もっさり”しているように見える」「ゴーイングメリー号の口がなぜか開いていて不気味」「アーロンの見た目に笑ってしまった」など、なるほど、それぞれの批判的な意見には納得できます。前述した通り、潤沢な予算がかけられ、キャラクターの見た目も含めてこだわり抜いているはずなのですが、それでも不満が出てしまうのは心苦しいものがありました。
また、Netflixでは日本のアニメを実写ドラマ化した『カウボーイビバップ』が、第1シーズンで打ち切りになってしまった苦い過去があります。さらに、2023年12月にNetflixで配信予定の実写ドラマ版『幽☆遊☆白書』の場合、キャラクタービジュアルの発表時点では残念ながら不評の声が圧倒的で、今後の予告編の公開などで巻き返せるのだろうか……と、この先の不安が待ち構えています。
しかし、今回の実写ドラマ版『ONE PIECE』ではティーザー予告編でやや賛否両論だった意見が、続けて公開された本予告では少し肯定のほうに向いて、さらに原作者の尾田栄一郎のメッセージなどから「これは、ひょっとして、かなり良いのでは!?」と思う声も増してきているのは事実。
いざ8月31日に本編が公開されれば、大絶賛に染まる可能性も大いにありますし、作品によってはバッシングが多かった「実写化」のアプローチそのものに対して、大きな転換点になるかもしれません。
なお、日本語吹き替え版には、アニメ版と同じ声優陣が再集結しているとのこと。その点でも大いに『ONE PIECE』という作品へのリスペクトが伝わります。配信を楽しみにしています。
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この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「日刊サイゾー」「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の魅力だけでなく、映画興行全体の傾向や宣伝手法の分析など、多角的な視点から映画について考察する。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。