今、60代の恋愛がアツい。『あいの里』が支持される理由をリアリティーショー出演経験者が考えてみた

恋愛リアリティ―ショー(以下、恋リア)戦国時代といわれる現代。2023年5月、今までの常識を覆すような斬新な恋リアが登場した。出演者はなんと30代後半から60代。人生最後の恋を探す男女が集う『あいの里』(Netflix)だ。(サムネイル画像出典:※画像出典:Netflix公式サイト)

恋リア出演経験者が感じる、『あいの里』とほかの番組との違い

『あいの里』と今までの恋リアとの違いはいくつかある。恋リアに出演した筆者が思う、特に面白いと感じた点を以下の3つにまとめてみた。

■1:「高齢出産についてどう思う?」など、会話が現実的
多くの恋リアのコンセプトといえば、「真実の愛を探す旅」である。20~30代の恋リアなら、真実の愛=結婚とされることが多く、番組終了後に出演者がゴールインするまで、視聴者は放送後も出演者の行く末を見守ることが多い。

『あいの里』も「真実の愛を探す」というテーマ自体は変わらないが、参加者はみな「人生最後の恋」を目的に参加している。

結婚や出産、さらに不倫を経験しているメンバーもいるため、「結婚したいか、したくないか」というテーマに関しては「一緒にいられればいい」と形にとらわれないメンバーもいる。

また「35歳以上での高齢出産についてどう思うか?」という現実的なテーマについて話し合う場面もリアルだ。20~30代の恋リアと違い、恋愛や結婚の表面的な部分だけでなく、本質的な話題で参加者同士が盛り上がるシーンは見どころの1つである。

■2:従来の恋リアで多く見られた「悪役」が登場しない
恋リアといえば、参加者同士の恋愛を巡ってさまざまなトラブルや事件が発生する。これこそが視聴者を楽しませるスパイスであるが、その代償として、出演者の誰かが悪役になることが多かった。この展開が嫌で、「恋リアは見ない」という人は多いはず。悪役として描かれた出演者は、番組終了後にSNSで誹謗(ひぼう)中傷されるなど、たびたび問題視されてきた。

『あいの里』は、この恋リアの問題点を見事なまでにクリアしている。出演者に完全な悪役は存在せず、大きな炎上もない。「いじられキャラ」は存在するものの、1人1人のバックグラウンドを丁寧に語ることで、全員の恋を応援したいと思える構図になっている。本名でなく、ユニークなニックネームをつけたという点もすてきだった。

■3:年齢を重ねても「結局、人間変わらない」という本質的なメッセージ
番組の後半、司会の田村淳さんから「45歳になっても、18歳と同じようなことやってる」という言葉が飛び出した。

最年少の女性がやってきた際、男性たちが明らかに色めき立つシーンや、余裕があるように見える大人の参加者が恋をした途端、一気に余裕をなくすシーンは「あぁ、いくつになっても人間って変わらないんだな……」と、心地よい諦めを与えてくれる。そんな、人間の本質的な部分が垣間見える瞬間がいくつもある。
 

『あいの里』は、30代以降にこそおすすめしたい

年齢を重ねるにつれて「恋リアのようなキラキラした恋がしたい!」と感じる瞬間は少なくなってくる。恋愛や結婚は“キラキラな要素”だけではない。現実的な問題にも向き合い、それをパートナーと解決していくことこそが「真実の愛」だと気付かされる場面が多々あるからだ。

だからこそ「非現実的でキラキラした恋リアが見たい」という人もいるだろうが、筆者はそこから“卒業”してしまった感がある。

一方で『あいの里』は、恋愛を超え、人生に起こる現実的な問題や悩み、人間の本質的な部分が描かれる。ある程度人生経験を重ねたアラサー世代、30代以降の世代にこそおすすめしたい。

最近「投資に興味を持ちだした」と現実的なことを語り始めた友人と共に、筆者も『あいの里』を楽しんでいる。


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この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール

ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。

 
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