日本語には、同じ事柄を表す場合でも、ニュアンスの異なる言葉が存在します。
人が亡くなったことを表す言葉でも、「亡くなる」のほかに「逝去」「死去」「死亡」などがあり、場面に合わせて使い分けられています。
今回は「逝去」「死去」「死亡」の違いや意味、読み方について、アナウンサーの笠井美穂が解説します。
<目次>
・「逝去」とは? 意味と読み方
・「逝去」と「死去」「死亡」の違い
・「逝去」「死去」「死亡」の使い分けと例文
・「逝去」の類語・言い換え表現
・メールで死を伝えるときの例文
・電話で死を伝えるときの例文
・逝去の連絡を受けたときの対応方法
・「逝去」「死去」「死亡」は場面に合わせた表現を
「逝去」とは? 意味と読み方
逝去とは、他人を敬って、その人が亡くなることや死ぬことを意味します。「死ぬ」ことを直接的にではなく、婉曲に表す「逝」に「去(る)」という字を合わせているのです。
逝去の読み方は「せいきょ」で、敬意を持って人の訃報を伝えるときに使われる言葉です。家族や身内の死に対して使うことはできないので注意しましょう。
「逝去」と「死去」「死亡」の違い
「死去」とは、人が亡くなることを表す言葉であり、特に公式な文書や報道で使用されることが多いです。
一方、「死亡」とは、一般的な言葉であり、人や動物が死んだ状態を指します。「死去」はより形式的な表現であり、特定の場面で使用されることが多いと言えます。
違いのポイントとなるのは、「直接的な表現」か「間接的な表現」かです。
『日本語 語感の辞典』でも説明されている通り、最も客観的に直接的な表現で伝えるのは、「死」に「亡(くなる)」という字を合わせた「死亡」です。
そして、「死」という字を用いない「逝去」は3つの中では最も間接的な表現で、直接「死」と言わずに訃報を伝えます。はっきりと「死」と言わず、故人への敬意を表すことができる尊敬語です。
「死去」は「死」という字を用いる点では直接的な表現ですが、「死亡」と比べると「亡」の字ではなく、「(この世を)去(る)」という字を用いる点で、やや気持ちを込めた表現と言えそうです。
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「逝去」「死去」「死亡」の使い分けと例文
それぞれの言葉は具体的にどのように使い分ければよいのでしょうか。
逝去(せいきょ)
「逝去」は尊敬語で、亡くなった人への敬意を表します。身内以外の訃報を伝える場合や、弔辞などで用いられます。
【例文】
・ご尊父のご逝去を、心よりお悔やみ申し上げます。
・先生が逝去された。
「逝去」は尊敬語なので「ご逝去」や「逝去された」は二重敬語となりますが、人の死をより丁重に扱う場面ために慣用的に使われることもあります。
死去(しきょ)
「死去」は、客観性のある、あらたまった表現なので、訃報を公に知らせる際などに用いられます。
ニュースで有名人の訃報を伝える場合、テレビの字幕や見出しのほか、新聞など文字媒体の本文では「死去」が用いられます。テレビやラジオの原稿では、より話し言葉に近い「亡くなりました」という表現が用いられます。
【例文】
・この度、父が死去しました。
・政界の大物議員が死去した。
死亡(しぼう)
「死亡」は、最も客観的に事実を伝える表現です。事件・事故などで死者が出た場合のニュースでは「死亡」が用いられます。また「死亡届」や「死亡診断書」など、事務的な用語や複合語としても用いられます。
【例文】
・この火事で、3人の死亡が確認された。
・遺族に死亡一時金が支払われた。
「逝去」の類語・言い換え表現
逝去の類語には、以下のような表現が挙げられます。
亡くなる
「亡(な)くなる」は、「死ぬ」の婉曲的な表現です。「死去」よりもややマイルドな表現ですが、「逝去」のように敬意のニュアンスはありません。尊敬の意味を込める場合は、「お亡くなりになる」「亡くなられる」とするとよいでしょう。
永眠
「永眠(えいみん)」には、「永久に眠りにつく」という意味があります。こちらも、「死」という言葉を使わず、間接的に伝える表現です。尊敬語ではないため、身内が死去した際にも使うことができますが、はがきなどの文書で用いられるケースがほとんどです。
他界
「他界(たかい)」とは、仏教において「人間界を去り、他の世界(死後の世界)に行くこと」を表します。こちらも、「死」の遠回しな伝え方として多く用いられており、身内かそうでないかに関わらず使うことができます。
息を引き取る
「息を引き取る」とは、「呼吸が止まる」「息が絶える」という意味があり、「死去」を婉曲的に伝える慣用表現です。身内に対しても、身内以外の方に対しても使うことができます。尊敬の意味を持たせる場合は、「息を引き取られる」とするとよいでしょう。
急逝(きゅうせい)
「急逝(きゅうせい)」とは、前触れもなく突然死去したことを表す言葉で、「急死」のあらたまった言い方です。事故や災害などで思いがけず亡くなった人や、短期間で病状が悪化して亡くなった人に対して使います。「長年の闘病の末、急逝しました」といった使い方は違和感があるため、避けるべきでしょう。
昇天
「昇天(しょうてん)」は、「天にのぼること」を意味する言葉で、キリスト教における「死」の婉曲的な表現です。「昇天」はカトリック、「召天」はプロテスタントでの言い回しです。身内以外の人に対して用いる場合は、「御昇天(召天)」「昇天(召天)される」と表します。
身罷る(みまかる)
「身罷る(みまかる)」とは、「死ぬ」の雅語的な表現です。「罷る(まかる)」は、「退く・去る」といった意味で、身があの世に去ることを表します。やや古風な印象はありますが、現代でも使われることがあります。
メールで死を伝えるときの例文
身内の不幸を伝える場合、一般的には対面あるいは電話での連絡が丁寧だとされています。ただし、相手の都合などによっては電話をかけづらい、連絡先を把握していないケースも少なくありません。このような場合は、メールやメッセージアプリを使っても問題ないでしょう。
今回は、身内が亡くなったことを、友人や知人へメールで伝える場合の例文をご紹介します。内容は、相手や状況に合わせてアレンジしてください。
例文
突然のご連絡失礼いたします。◯◯(故人)の××(続柄)の△△(自分の名前)です。
◯◯(故人)はかねてより病気療養中でしたが、去る◯月◯日、◯歳で永眠いたしました。
ここに生前のご厚誼に深謝し、謹んでお知らせ申し上げます。
本来であれば電話でお伝えすべきところ、メールでのお知らせとなりました失礼をお許しください。
電話で死を伝えるときの例文
電話で訃報を伝えるときは、まず自分の名前を名乗り、手短に訃報を知らせます。今回は、親族に連絡する際の例文をご紹介します。故人の職場や友人・知人に連絡する場合は、あらたまった伝え方を心がけましょう。
例文
◯◯(故人)の××(続柄)の△△(自分の名前)です。◯◯(故人)が◯月◯日に息を引き取りました。お通夜とお葬式の日程は、決まり次第改めてご連絡いたします。何かあれば、自宅か私の携帯にご連絡ください。
ポイント
亡くなって間もない時期だと、気が動転して内容を伝えきれないこともありますので、メモにまとめておきましょう。通夜・葬儀に参列してもらう予定の相手であれば、都合を尋ねておくとよいかもしれません。
逝去の連絡を受けたときの対応方法
ご遺族から訃報の連絡を受けたら、お悔やみの気持ちを伝えましょう。ここでは、電話・メールそれぞれでの伝え方をご紹介します。
電話で連絡を受けたときの返答【例文】
・大変なときにお電話いただき、ありがとうございます。心からお悔やみ申し上げます。
・突然のことで驚きました。ご家族の皆様の悲しみを思うと、お慰めの言葉もございません。心からお悔やみ申し上げます。
メールで連絡を受けたときの返信【例文】
〇〇(故人)様の逝去の報に接し、心より哀悼の意を表します。
突然のことで大変かと思いますが、気を落とされませんように。
本来なら直接お悔やみ申し上げるところ、略儀ながらメールにて失礼いたします。
「逝去」「死去」「死亡」は場面に合わせた表現を
人の死というのは、残された人にとって大きな喪失感や悲しみをもたらすものです。
その気持ちを丁寧に扱い、傷つけないためにも、死を伝える言葉にはさまざまな表現があるのかもしれません。
この機会に「逝去」「死去」「死亡」をはじめ、死を表す日本語の意味をあらためて確認し、その場にあった適切な言葉を使えるようになりたいものです。