日本人の行動は意地悪?
コロナ禍が始まって以来、「スパイト行動」という言葉をちらほら耳にするようになりました。「スパイト」は英語の「spite(意地悪)」が原義で、「スパイト行動」とは、
・自分が不利益を被ってでも、相手を陥れたり、制裁を加える意地悪な行為
・自分が我慢しているのに、他人が得をするのが許せず、足を引っ張る行為
などを指し、コロナ禍においてはマスク非着用者や旅行者を私的に取り締まったり、嫌がらせをする「マスク警察」や「自粛警察」がそれにあたります。具体的には、「自分が苦しい思いをしてマスクをしているのだから、他人も同じように苦しむべき」、「自分が旅行を我慢しているのだから、他の人だけ楽しい思いをするのは許せない」という考えが根底にあるようです。
スパイト行動について日本人と異なる国の人々とを比較したところ、日本人はよりスパイト行動を選択する確率が顕著に高かったとの経済学者による実験報告もあります。確かにヨーロッパから眺めてみると、日本人特有だなと感じられる行為には、スパイト行動ではないかと疑われるものが少なくありません。例えば……。
「無痛分娩」はずるい?
無痛分娩はヨーロッパでは広く普及しているうえ、基本的に「自分は自分、他人は他人」の個人主義カルチャーが色濃いため、誰が無痛分娩を選択しようと周りがとやかく言うことはほとんどありません。しかし日本の場合は、Googleで「無痛分娩」と検索すると、
「無痛分娩 むかつく」
「無痛分娩 ずるい」
など、驚きのサジェストワードが表示されます。
これも「痛みに耐えてこそ母親」といった従来の価値観を軸に、「自分がこれほどの激痛を耐え忍んだのに、他の女性が苦しまないのは許せない」という日本人特有のスパイト行動かもしれません。
任意参加(のはず)のPTA活動も……
本来、学校のPTA活動は任意参加なのだそうですが、半ば強制的に入会させるところも少なくないと聞きます。そんななか、PTAの退会者や不参加者に対して「フリーライド(他人が築き上げたものに便乗して利益を得ようとする行為)」と糾弾したり、不参加家庭の子どもを集団登下校のグループに入れない、PTA予算で準備される卒業記念品を渡さないなど、目に見える差別をしたりして強制参加に誘導するケースもある様子。
もともとPTAとは、その学校に通う全ての児童・生徒に対して提供する自発的なボランティア活動であるはずなので、それに参加しない家庭の子どもを「フリーライダー」と呼ぶのは筋が違う、保護者と教員たち(PTA)から搾取している自治体はどうなんだ、といった意見も高まっているようで、徐々に任意参加の風潮が広まっているとは聞きます。このケースもやはり、「自分だってPTA活動を我慢しているのに、参加せずに恩恵だけ受ける家庭は看過できない」というスパイト行動のなせる業なのでしょうか。
「定時で帰れない」日本人の不思議
これぞ世界的にも有名な、日本人の“謎”習慣!
「何であいつは定時に帰るんだ?」とは自身もよく言われたフレーズですが、少なくとも過去に筆者が勤めていた企業では、たとえ仕事が終わっても、じっとPC前に鎮座して深夜までクライアントや上司からの指示を待つ、よほど促されない限り上司や先輩より先に帰宅しない、などの不文律が厳然としてありました。
ヨーロッパに住んでいると、
「日本人はなぜ、仕事が終わっても帰らないのか」
「ずっと会社で時間をつぶしている意味が分からない」
「どうして早く終わる仕事を引き延ばす?」
といった長時間残業に関する質問を受ける機会が多いのですが、現在に至るまで快答できたためしがなく、長らく煩悶(はんもん)していました。これもまた、スパイト行動にくくられる日本の企業文化なのでしょう。
今後、外国人から「みんなで苦しもう」的な日本人の不可解な習慣や言動について尋ねられた際には、「あ、それスパイト行動ね!」と返せば十中八九は正答なのかもしれませんね。
ライジンガー真樹のプロフィール
元CAのスイス在住ライター。日本人にとっては不可思議に映る外国人の言動や、海外から見ると実は面白い国ニッポンにフォーカスしたカルチャーショック解説記事を中心に執筆。All About オーストリアガイド。
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