ヨーロッパの子育て支援はどうなっている?
日本の少子化が絶望的に止まらないようで、2023年4月からは出産育児一時金がついに50万に増額されるとのこと。そして東京都も危機的状況を憂慮し、所得制限なしの給付金配布案を打ち出してきたと聞きます。0〜18歳の子ども全員に月5000円程度を配布するというものですが、勢いの止まらない少子化に果たしてどの程度功を奏するのでしょうか?
筆者が長く住んだヨーロッパのオーストリアも、昨今の深刻な少子化にあえいでいる状況ですが、背景は随分と異なります。というのも、同国では子連れ同士の再婚や事実婚は初歩の初歩。同性カップルによる養子縁組なども日常的に見かけますし、伝統的なスタイルを維持して婚姻率および出生率を減らしている日本と比べ、婚姻制度や家族観はかなり緩やかです。その上、育児に関する福祉が比較的充実していることもあり、何となく日本よりも少子化対策が成功していてもよさそうなイメージですが……。
日本とオーストリアの「子育て支援」を比較
項目別に、両国の子育て支援を少し比較してみましょう。
■妊娠・出産費用
日本…妊娠中の健診費は保険適用外の100%自己負担。自治体による健診費用の一部助成があり、最終的には合計4〜7万円程の出費に。自治体や産院によって金額がまちまちであるため、自己負担額が不透明。出産費用も(正常分娩の場合)100%自己負担で、厚生労働省のデータ(2022年8月公開)によれば平均出産費用は46.7万円。2023年4月より出産育児一時金が50万円に増額されることにより、正常分娩の出産費用はほぼカバーされることに。
オーストリア…自費診療の医師を選択しない限り、原則的に医療費は0割負担のため妊婦健診も出産も無料。
■児童手当
日本は中学卒業までが支給対象であるのに対し、オーストリアでは原則として満24歳まで支給されます。
経済支援や現物支給も「焼け石に水」
オーストリアのいいところは、プライベート診療の医師や病院を受診しない限り、原則として医療費が無料であることです。
日本のように自治体によって助成金額が異なる煩雑さはなく、一律無料なのは大きな安心感といえます。加えて、同国では児童手当が満24歳までもらえるのもうれしいところ。しかも、小学校~ギムナジウム(日本の高等学校に相当)の授業料は公立であれば無償(人口の約4分の1が住むウィーンやブルゲンラント州では0歳からの保育園・幼稚園も無償)、ウィーン大学の授業料も年間726.72ユーロ(約10万2000円※2023年2月現在)と、子どもに高等教育まで受けさせる際の長期的な経済負担は、日本と比較して格段に抑えられています。
さらに2023年からは物価高騰に合わせて、児童手当も2022年の支給額に一人当たり約6%(年齢によって1000円〜2000円程度)の増額が実施されました。
結婚観がリベラルで、移民も豊富なのに……
また、冒頭でも述べたようにリベラルな家族観も都市部を中心にかなり浸透しており、2007年以降はオーストリアで生まれた長子の半数以上が未婚カップルの間で誕生。婚外出産率も2014年には41.7%(出典:eurostat Statistics Explained)に達したようです。
日本では婚姻率の低下が出生率の低下の原因とされ、躍起になって婚姻率を上げさせるよりも、ヨーロッパのようにリベラルな結婚の概念と制度が普及すれば少子化が食い止められるのでは? と考えられている節があるようですが、オーストリアの例を見る限り、これにどれほどの効果があるのか少し疑問です。
そのうえ、この国はこれまでトルコをはじめ諸外国からの移民を50年以上にもわたり受け入れ続けてきた事実があります。しかし、移民の2世以降は現地の女性並みに出生率が減るという現実に直面しており、移民政策は短期的な回復は望めるものの、少子化の起死回生にはつながらないという、厳しい状況を提示しています。
経済支援をさらに充実させ、究極的には「結婚観のリベラル化」と「移民受け入れ」に頼れば、少子化を持ち直せるだろうとの期待があるのだとすれば、いずれのセオリーもオーストリアで失敗していることを見るにつけ、日本の将来を本気で憂慮せざるを得ません。
とはいえ、賢明な政治家や専門家の方々はこのような他国の状況はとうにご存じでしょうし、それを見越したうえでの「異次元の少子化対策」投入だと推察されるので、これからの政策にどう反映していくのかを注視していきたいところですね。
ライジンガー真樹のプロフィール
元CAのスイス在住ライター。日本人にとっては不可思議に映る外国人の言動や、海外から見ると実はおもしろい国ニッポンにフォーカスしたカルチャーショック解説記事を中心に執筆。All About オーストリアガイド。
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