「彼女は、僕が知らない間に堕胎手術までしていた」
10年前の話だ。今はもう幸せな暮らしをしているAさんが元カノの裏切りに気が付いたのは、元カノと2人で、自宅で映画を見ていた時だった。主人公が、長い間自分でも認めたくなかった婚約者の浮気を最後に問い詰め、別れるという筋立て。「あ、これは僕のことだと思ったんです。その頃、元カノとずっとセックスレスで、なんかおかしいな、僕が何かしたかなと、ずっと理由がわからなくて、でも聞くことができずに悩んでいました」。
Aさんは、映画を見終わった彼女がお風呂へ向かった際、彼女のiPhoneを手に取った。「手が震えました。そしたらなんと、パスワード設定がされてなかったんですよ」。LINEがまだ今ほど普及していない10年前のこと。Aさんがまず見たのは、iMessageだった。すると、彼女と上司の生々しいやり取りがそこにはあった。
「ああ、やっぱりそうだったか、って。僕と付き合う前、彼女が職場の上司のことを好きだったという話は聞いていました。でも相手は既婚者で、子どももいる。僕としては、彼女が僕との交際を進めている中で、上司とも二股をかけているとは信じたくなかったです。でも、スマホはその証拠を突きつけていたんですよね」
元カノも何かを察したのだろうか。そのうち、iPhoneには4ケタのパスワードがかけられるようになった。自分の誕生日だったり、彼女のお父さんの誕生日になったり。そのあたりは見当がついたが、ある時、パスワードが効かなくなった。「上司の誕生日だ、とピンときて入れたら、開きました。僕の誕生日が出てきたことは1度もなかったです」。上司の誕生日は、彼女が上司と不倫しているのがわかった時に、彼女のiPhoneのアドレス帳から上司の連絡先その他の情報を写真に撮っておいたのである。
Aさんは、皮肉な笑いを浮かべる。「まあ、まだ文春砲なんてのもありませんでしたから、スマホのセキュリティ意識やパスワードの使い回しが今よりもはるかに緩かったというのはあります。でも、どんなに付き合い始めのラブラブの時期でも、お互いのパスワードは絶対教えちゃダメですよ。僕たちはパスワードなんかも全部教え合っちゃっていたんです。何やってたんですかね」
おかげで、既知のパスワードが使い回されていた彼女のYahoo!メールも簡単に見ることができてしまった。「相手の上司が既婚者なので、スマホにメッセージの通知が出たりしないよう、休日の2人のやりとりはメールだったんです。びっくりしましたよ。彼女、その1カ月前に彼の子どもを堕ろしていたんです」
真実を暴いて目にもの見せてやろう、という心理状態
衝撃だった。体調が悪い、というのは聞いていた。そして、生理が重いのでピルを飲み始めた、とも。「そのピルは、上司との子どもを妊娠してしまったことで飲み始めたんですよね。僕はそんなことも知らないで、ただただ彼女をいたわっていた」
そして元カノは日記アプリも使っていた。「そのパスワードも誕生日だったんで、すぐ開けられました。そうしたら、彼の奥さんも同じ時期に2人目の子どもを産んでいて、自分は堕ろしたのに許せない、もうあの夫婦は冷え切ってるって言ってたのに、とか、有名な占い師に運命をみてもらったとか。うわー、なんてテンプレなんだ、もうダメだって。そうしたら気付いたんですよね。僕、もう彼女が好きだとか取り戻したいとかいう気持ちはすっかりなくなってたんです。“潜入捜査”が面白くなっちゃってて、いつか彼女にこの成果を突きつけて目にもの見せてやろうって心理状態になっていました」
いつか目にもの見せてやろう。彼女には一切何も言わず、淡々と交際を続け、時々SNSで「婚約者に浮気されて破談した人の連投ツイート」を全部リツイートしてみたりした。すると、それを見た彼女が上司に「もしかして、彼に浮気がバレているかもしれない」と連絡している。Aさんは呆れる。「それって、まだ“僕にバレてない可能性もある”と思っているんだな、って。のんきだなぁ、こっちはもう全部知っているのに、今さら。それで、一気にばかばかしくなっちゃったんです。もういいや、こんな人、って」。
サレ男の逆襲
Aさんは、元カノに「別れましょう、でも彼女の幸せを祈っているよ~、みたいな内容の、だけど縦読みすると●●(上司の名前)しね、ってなっているメールを送りました。そしたら、鬼電ですよ(笑)。彼女から夜中にも何度も何度も電話がかかってきたけれど、全部無視。やっと全てを認めるメールが来たと思ったら、『2人とも好きだったから苦しかった』『あなたとは家族みたいな関係だったからセックスできなくなった』って。男も女も、そういう時おんなじことを言うんですね(笑)。何万回も使い古されたような、安っぽい話ですよ」
交際相手や配偶者に浮気される人を「サレ●●」と呼ぶ。サレ男だったAさんは、だから篠田麻里子さんの夫にも、これまでのナントカ砲みたいなスキャンダルで相手の浮気LINE画面を週刊誌に流したさまざまな人々にも、どこか同情する気持ちが隠せないのだという。
「なんでこんなにつらい気持ちにさせられるんだろう、自分が悪いのかな、って、相手のために本当に苦しんだ人たちだろうと思います。でも、自分が好きな人が浮気相手とキャッキャしている証拠をつかんで、むしろ理由が明確になって、スッキリしたはずなんですよね。ああこういうことか、こういう人なんだ、と。気持ちの踏ん切りもついたんじゃないかな」
サレ男、サレ女、サレ夫、サレ妻……。浮気された側がその逆襲の一撃に込める思いの重さは、ちゃんと相手に届くだろうか。それとも、そんな傷つけられた側の感情など理解できない相手だから、裏切ることができてしまうのだろうか。
河崎 環プロフィール
コラムニスト。1973年京都生まれ神奈川育ち。慶應義塾大学総合政策学部卒。子育て、政治経済、時事、カルチャーなど幅広い分野で多くの記事やコラムを連載・執筆。欧州2カ国(スイス、英国)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、政府広報誌など多数寄稿。2019年より立教大学社会学部兼任講師。著書に『女子の生き様は顔に出る』『オタク中年女子のすすめ~#40女よ大志を抱け』(いずれもプレジデント社)。
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