「制作者の墓場」のテレビマンたちが覚醒する物語
この秋の大きな話題となったドラマ『エルピス-希望、あるいは災い-』(関西テレビ・フジテレビ系)が、12月26日にとうとう最終回を迎えた。社会派エンターテインメントと呼ばれたこのドラマ、どの視聴者層よりもマスコミ業界の人々が毎週ワクワクと張りつき、その感想を公式記事につづり、SNSなどで制作者へ直接「今回もありがとう」と喝采を送っていたことでも知られる。新聞や週刊誌、Web、もちろんこのドラマの舞台となったテレビ局も。業界視聴率が高い、というやつである。
というのも、このテレビマンたちの覚醒のドラマは、組織の理屈に押し潰され、日々のルーティンにすり減り「ウチの会社(マスコミ)は死んでいくのだ」と心も体も冷え切っていたマスコミ人たちの体に、小さな灯をともしてくれたからだ。
民放キー局「大洋テレビ」の、視聴率も取れず期待もされない、騒がしい深夜の週1情報バラエティ番組『フライデーボンボン』。大組織の理不尽な力によって干され、萎縮し、腐る自分を「自分の人生もこの程度なんだろう」「もうテレビは死んでいくのだ」とそれぞれに受け入れ、真実の報道だのと崇高な理念など忘れ捨てるしかなかったテレビマンたち。
その掃き溜められた彼らが、少女連続殺人事件の冤罪(えんざい)調査報道をきっかけに真犯人が副総理の指示で揉み消されたことに気づき、「もう飲み込めない」と傲慢な権力の横やりや硬直した組織の忖度に反抗し、一種の「報道的テロ」を起こして分厚い壁に穴を開けていく。
「絶対に何かすごいものを見せてくれ」との期待に応え切った
「ああ、こういう人、いま確実に実在する」と感じる、登場人物の丁寧な設定は、物語のリアリティを最後までブラさず、見る者の心を捉え続けた。
かつて路チュー写真を週刊誌にすっぱ抜かれたスキャンダルによって、看板ニュース番組キャスターの座から転落し、心身をボロボロにされながら深夜の情報バラエティ番組で1コーナーを担当させられるだけの元人気女子アナ・浅川恵那(長澤まさみ)。
裕福な家庭に育ち、「下から」エスカレーター式の名門私立大学を出て、自身のエリート人生に疑問も持たず、特に大きな野心や夢を抱くわけでもなく「就職先として人気だから」テレビ局へ入社し、番組キャストのガールズの一人を口説いた若手ディレクター・岸本拓朗(眞栄田郷敦)。
その騒がしく期待もされない深夜の情報バラエティ番組をパワハラもセクハラも山盛りで粗雑に率いる、報道局からのワケあり左遷組チーフプロデューサー・村井喬一(岡部たかし)。
一方、女子アナの路チュー写真の相手であり、いまや副総理に食い込み、権力の懐で可愛がられてその政治作法を十分に体へ染み込ませていく、勝ち組の政治部官邸キャップ・斎藤正一(鈴木亮平)。
確かなスター性と演技力を備えた主演陣に加え、梶原善や近藤公園、六角精児、筒井真理子などの錚々たる演技派が脇を固めた。眞栄田郷敦と岡部たかしにとっては、もはや今作が代表作となったろうと思われるほどの名キャスティングだった。
プロデューサーは2017年の『カルテット』(TBS系)や2021年の『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ系)の大ヒットが記憶に新しい佐野亜裕美、脚本はNHK連続テレビ小説『カーネーション』や映画『メゾン・ド・ヒミコ』の渡辺あや、監督・演出に『モテキ』の大根仁。現代に波風を起こす健全な不穏さを隠し持った、名だたる制作陣への「絶対に何かすごいものを見せてくれるに違いない、見せてくれ」という期待も、甚大だった。
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