『鎌倉殿の13人』完結! “最恐”キャラで話題の栗原英雄さんに聞く
12月18日(日)に最終回を迎え、いまだ余韻さめやらぬ大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)。終盤に“闇落ち”した主人公・北条義時はじめ、個性的なキャラクターたちが居並ぶ中でも、“実は最恐キャラクター”として注目されたのが、鎌倉幕府の“フィクサー”こと、大江広元でした。
御家人同士、そして朝廷という強敵を相手にパワーゲームが展開される中で、常に冷静に状況を見極めながら、“~~には死んでもらいましょう”と義時に提言。一方では北条政子にほのかな思いを寄せるというギャップが、SNS上でも大いに話題となりました。
演じたのは劇団四季出身の栗原英雄さん。2016年の大河ドラマ『真田丸』(NHK)以来、三谷幸喜さんが絶大な信頼を寄せる名優です。聞けば、“修羅の道”化が半端なかった『鎌倉殿の13人』には、その『真田丸』が大いに影響していたそうで……。
「『真田丸』で、「調略」という回がありましたよね。僕が演じる真田信尹が、春日信達を(騙して)殺すという内容でしたが、ああいうドキッとするようなものを毎回やりたい、と本作のプロデューサーがおっしゃっていたそうです。
(『鎌倉殿~』は)まさに毎回誰かが退場していく、ハラハラドキドキの展開でしたが、思えば昔の大河ドラマには、そういう要素が少なからずありました。『黄金の日日』(1978年)で石川五右衛門が釜茹でにされたり、ね。そういう要素が入ることで、このところ大河ドラマをご覧になっていなかった方もたくさん戻ってこられたようです。各地で(番組の)イベントに出たときの反応から、それはすごく感じられました」
栗原さんが震え上がった「最恐」のセリフは?
広元といえば、“それをさらりと言うか!”とお茶の間を震え上がらせた台詞が数々ありますが、栗原さん自身、その“怖さ”は重々承知していたそう。
「“最も頼りになる者は最も恐ろしいから”と、“上総之介(広常)には死んでもらいましょう”と、平気で言える人でしたね。
僕が台本を開いたときに一番“怖いな”と思ったのは、(物語の中盤で、源頼家について)“まがりなりにも鎌倉殿ですぞ”と問題提起をしてきた三善康信に対して“それが何か?”と一刀両断するくだり。“今は実朝さまを(鎌倉殿に)立てようとしているのだから、頼家さまのことはもういいですよ”と丁寧に説明するのではなく、“その話はもう終わっているんです、本題に入りましょ”とばかりにスパッと切ってしまうのが、広元らしいなと思いました。
こういう台詞は、大声で返すこともできたと思うけれど、僕の選択はあくまで、淡々と。他の人たちは感情的になるからぶつかりあいが始まっていったのだけど、広元は(武士ではなく)文官ということで、“仕事”として幕府のために何が最善かを考え、こなしていくことで生き残っていけたのだと思います」
一方では、政子に“重すぎます”と拒絶されながらも思いを寄せ続けるという、ロマンチックな一面も持つ広元。終盤は目を患い、手を引かれる描写もあったものの、大詰めの第47回では政子に演説の原稿執筆を頼まれ、渾身の力で筆を握る姿に“政子のために見えるようになった!?”と注目が集まりました。
「映像には映っていなかったと思いますが、広元はこれくらい(3センチくらいまで)紙に顔を近づけて書いています。うっすら見えるんですね。史実では、広元の目の病気は少しずつ治っていったそうなのですが、どのタイミングで平癒したとするのか。
ネットが沸いた、大江殿「開眼」の舞台裏
彼が一番目を開ける状況はどこだろうと考えたときに、やはり政子が自分の言葉で語りだした瞬間だと思いました。動揺する御家人たちをまとめるために、政子は広元が書いた原稿で演説をしますが、途中で止まる。何が起きたんだろうと思うと、政子は自分の意志で語りだすんです。それは広元にとって全然嫌なことではなく、むしろ彼女が覚醒したことが嬉しい。どうしてもその姿を見たいという力が働く……それが、あの姿になっていきます」
ここで開眼したかったのには、もう一つ理由がある、と栗原さん。最終回での“老い”の表現に、眼力が欲しかったのだそう。
「(義時の息子の)泰時が自立していくじゃないですか。(ライバルたちを軒並み“排除”するのではない)新しい形でやっていこうとする彼を尻目に、広元はまだ義時に強硬論を主張するんです。ここでは老いた人間の寂しさというか、わかってはいても変われない頑固さを出すとなったときに、目をつぶったままでは表現がしづらいなと思いました。台本には書いてなかったですが、一人で歩けるくらいに治っておこうと思いました。
そんな広元も、義時が亡くなったときに、自分の時代は終わったと思うんです。それで義時の一年後に彼は亡くなり、その一カ月後には政子も亡くなっています。死因は大腸がんだと言われていますが、あの最終回を観た後では、ちょっと想像力が働きますよね。(頼家の死に)広元も一枚かんでいたとわかったら、政子は……。そして彼女は自分でケリをつけたのかもしれないし……と、いろいろな想像ができますね」
最終回を迎えた今、『鎌倉殿の13人』というドラマを、栗原さんは“必死に生きる人々のドラマ”と振り返ります。
「北条家を中心とした群像劇ですが、“誰も悪くなくて、誰もが悪い”。必死に生きる中で、その手段を選ばなければいけなかった人たちのドラマで、現代に通じるものがありますね。人間はいつの時代も、愚かなことを続けているのだと感じます。
あのラストについても……政子としては、弟を解放してあげたいという思いの一方で、頼家を殺されて思うところがあるだろうし、人の心って一色ではないですよね。憎しみだけでなく、悲しみも怒りもあるでしょう。そういうものを描くのが、僕らの仕事なんですよね」
『鎌倉殿』に続き、柿澤勇人さんと『ジキル&ハイド』で共演
それは舞台でも同じです、と栗原さん。念頭にあるのは来春に出演するミュージカル『ジキル&ハイド』です。科学実験に失敗した医師の中に凶悪な別人格が生まれてしまうという物語の中で、栗原さんは主人公の婚約者の父・ダンヴァースを演じます。
「善と悪がテーマの一つでもありますが、『鎌倉殿』と一緒で、何が善で何が悪かというのは一概には言えませんよね。自分としては善だけれど周りから見たら悪かもしれない。そういう人間の永遠のテーマを、共演の皆さん、演出家と深くお話ししながら表現していけたらと思います」
主人公のジキル/ハイド役は石丸幹二さん、柿澤勇人さんのダブルキャスト。3人とも劇団四季の出身で、柿澤さんとは『鎌倉殿』でも共演した仲です。
「(柿澤さんは)入団したときから“活きのいい子が入ってきたな”と注目していたので、また共演できてうれしいですね。義理の父になる役なので、ジキルに振り回されながらもあたたかく見守っていこうと思います」
けれど単なる“いいお義父さん”というわけではないようで……。
「真っ白な人物ではないと思いますよ(笑)」
広元同様(!?)、“海千山千”の人物像が、舞台にいっそうの厚みを加えてくれそうです。
<公演情報>
『ジキル&ハイド』2023年3月11~28日=東京国際フォーラム ホールC、その後ツアー公演として2023年4月8~9日=名古屋公演・愛知県芸術劇場 大ホール、2023年4月15~16日=山形公演・やまぎん県民ホール、2023年4月20~23日=大阪公演・梅田芸術劇場メインホールにて上演
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