「ふざけんじゃねぇよ、コノヤロー」
先日SNSで、電車内で乗客2人の殴り合う様子を撮影した動画が話題に。怒号を発して殴ったり蹴ったり、時には周囲の人にもぶつかりながら、2人のケンカは約40秒間続きました。
その後、トラブルを起こした2人は他の乗客に制止され、到着した駅で降車した模様。今後このような事件が発生しないことを願いますが、一方で、いくつか気になる点が……。
SNSのユーザーから、「関係のない乗客にはモザイクをかけるとか配慮できないの?」「写り込んだ人たちのプライバシーが……」「わざわざ、SNSに投稿する必要はある?」「えっ、これって盗撮じゃないの?」などの声が寄せられていました。
たしかに、動画をよく見てみるとケンカ中の2人以外の乗客が写り込んでいたり、動画の一部を切り取って加工・コラージュされた画像が拡散されていたりもします。
そもそも盗撮とは何か。また、私たちのプライバシーはどのように守られているのか……。法的観点から弁護士である筆者が解説します。
そもそも「盗撮」とは?
盗撮とは、「被写体となる相手の同意や了解なく、撮影すること」を言います。刑法には「盗撮罪」という犯罪はなく、各都道府県の条例や軽犯罪法に該当する場合に処罰されることとなります。
例えば、東京都の迷惑防止条例では「住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」に加えて、「公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物」内で「人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて」撮影することを処罰の対象としています(※1)。
ただ顔が写ったり、たまたま写り込んだものについては盗撮には当たりません。
撮影した動画や画像をSNSに投稿、法的リスクはある?
ただし、処罰の対象となる盗撮には当たらないとしても、撮影された人の「プライバシー権」「肖像権」を侵害する恐れがあります。
肖像権とは、「承諾なしに、みだりにその容貌、姿態を撮影されない権利」や「撮影されたものを無断で使用や公表をされないという権利」のことを言います。
事前に撮影やSNS投稿への承諾をしていることはほとんどないでしょうから、SNSへの投稿は肖像権を侵害するケースがあるということです。もっとも、撮影された人全ての肖像権を侵害しているわけではなく、「受忍限度」(※)の範囲内でしたら問題はないと考えられます。例えば、道路を歩いている大勢の人を撮影した場合とか、風景写真に写った場合などは問題ないとされています。
※受忍限度:社会生活を送る上で、一般人が我慢できるとされる程度のこと
動画を拡散したり、コラージュしたりするのは法的な問題がある?
まず、動画の拡散行為について、元の動画に法的な問題がなければ、特に問題は生じません。しかし、元の動画自体がプライバシー侵害や名誉毀損の内容を含むものである場合には、それを拡散する行為も同じ評価をされることがあります。
次にコラージュについては、元の動画の著作権を侵害することになるでしょう。また、コラージュされた動画の内容が、新たな別の印象を与えるものとなっていて、それがプライバシー侵害や名誉毀損の内容を含んでいれば、コラージュした側が責任を問われることになります。創作物、コラージュだからといって法的な責任が問われないわけではありません。
画像や動画の撮影、SNSへのアップロードついて「私たちが気を付けたいこと」
SNSが日常生活に密着した今、1つ1つの投稿や共有行為に対して疑問を持つことはほとんどないと思います。中には迷惑行為を見つけたことによって、正義感から問題提起をするために投稿や共有することもあるでしょう。
しかし、たとえ画像や動画を“撮影される側”に非があるケースであったとしても、それを無断で撮影したりアップロードしたりしてもいいことにはなりません。興味関心のある画像や動画を少しでも早く投稿・共有したいと思いがちですが、ボタンを押す前に投稿・共有してもいい内容なのかを冷静に考えましょう。
【参考】
※1:警視庁 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(迷惑防止条例)(https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/about_mpd/keiyaku_horei_kohyo/horei_jorei/meiwaku_jorei_kaisei.files/jyourei.pdf)
鬼沢 健士プロフィール
弁護士。慶應義塾大学経済学部卒業、慶應義塾大学大学院法務研究科修了。司法修習を経て、東京弁護士会に弁護士登録。平成24年に茨城県取手市に「じょうばん法律事務所」を開設。
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