
皆さんは「異常」と「異状」の違い、分かりますか? どちらも「いじょう」と読む熟語で、「いつもとは異なる」というような意味で使われる点でも共通しています。
では、この2つの言葉が同じ意味なのかというと、そのニュアンスは微妙に異なります。今回は「異常」と「異状」の意味の違いや、使い分け方を具体的な用例とともにフリーアナウンサーの笠井美穂が解説します。
・「異常」と「異状」で意味の違い
・ 「異常」と「異状」の使い分け方
・「異常」と「異状」の用例
・「異常」と「異状」では使い分けに注意
「異常」と「異状」で意味の違い
まずは、「異常」と「異状」がそれぞれ辞書でどのように説明されているか確認してみます。
異常 普通と異なっていること。並みはずれていること。また、そのさま。⇔正常
異状 異常な状態。普通とはちがったさま、かたち。
(『精選版 日本国語大辞典』小学館)
普通とは異なることを「異常」といい、その「異常」な状態のことを「異状」というと説明されています。
さらに、この2つの違いについて次のような詳しい説明もあります。
「異常」は、普通の状態との異なりの方に重点があり、「異状」は、普通とは異なった状態そのものに重点がある。
(『精選版 日本国語大辞典』小学館)
また、『大辞林 4.0』(三省堂)では、「異状」について「普通とは違った状態。多く悪い状態に用いる」とされていて、次のような説明も加えられています。
「異状」は普通と違った悪い状態のことであるが、それに対して「異常」はいつもと異なっていることをいう。
(『大辞林 4.0』三省堂)
これらのことを合わせて考えると、「異常」は良い悪いにかかわらず通常の状態とは違うことを指し、「異状」は通常とは違う状態、特に悪い状態を指すことが多いといえそうです。
「異常」と「異状」の使い分け方
「異常」と「異状」には意味だけでなく、使い方にも違いがあります。
『精選版 日本国語大辞典』などの国語辞典には、それぞれの品詞が「異常〔名詞〕(形容動詞)」「異状〔名詞〕」と記載されていて、次のように説明されています。
「…が」「…を」「…に気づく」のような名詞的用法の場合には「異状」が用いられ、「…な」「…に興奮する」のような形容動詞的用法の場合には「異常」が用いられるのが原則である。ただし、「精神の異常をきたす」のように、名詞的用法の場合でも「異常」が用いられることもある。
(『精選版 日本国語大辞典』小学館)
名詞的用法、つまり「普段とは違う状態」という言葉で置き換えられるような場合は「異状」を用いる一方、形容動詞的用法、つまり「普段とは違った」や「通常とは違って」などの言葉に置き換えられる場合は「異常」を使うと考えるとよいでしょう。
「異常」と「異状」の用例
最後に「異常」と「異状」の具体的な用例を示します。
「異常」の例文
・今年の夏は、異常な暑さが続いている。
・強いストレスがかかると異常な行動が現れる場合がある。
・あの件に関して彼は異常なまでのこだわりを見せている。
「異状」の例文
・その患者は以前から体の異状を訴えていました。
・全員異状がないことが確認されました。
「異常」と「異状」では使い分けに注意
いつもとは異なるということを表す「いじょう」という言葉。
「異常」「異状」2つの表記のうちどちらを使うか悩むこともあるかもしれませんが、普段との違いに重点が置かれている場合、また形容動詞的な使い方をする場合は「異常」。
普段と違う状態に重点が置かれている場合や、名詞的な使い方をする場合は「異状」を使うのがよいでしょう。
■執筆者プロフィール

笠井 美穂(かさい みほ)
福岡県出身。九州大学文学部を卒業後、KYT鹿児島讀賣テレビに入社。退社後は、報道番組を中心にフリーアナウンサーとして活動。これまでの出演は、NHK北九州放送局『ニュースブリッジ北九州』、NHK BS1『BSニュース』、NHK Eテレ『手話ニュース』、NHK ラジオ第1『NHKきょうのニュース』『ラジオニュース』など。