NHK党「ガーシー議員」公務のリモート化を訴えるが……国会議員の働き方やルールはどうなっている?

2022年7月の参院選で初当選した暴露系YouTuberのガーシー参院議員。当選後も国会に出席せず、滞在するドバイからオンラインでのみ議員活動を行っていますが、今回はそんなガーシー氏をテーマに、国会でいま何が起きているのか見てみましょう。

2022年7月の参院選で初当選した暴露系YouTuberのガーシー参院議員(NHK党)。当選後も国会に出席せず、滞在するドバイからオンラインでのみ議員活動を行っていますが、今回はそんなガーシー氏をテーマに、国会議員の働き方やルールについて、国会議員のスピーチライターとしても活動する筆者が解説します。
 

異例ずくめのガーシー議員

2022年7月の参院選で初当選したガーシー議員。その議員生活は異例ずくめのスタートとなりました。

まず、ドバイから1度も帰国することなく、オンラインの選挙活動だけで当選。当選後は本名の東谷義和ではなくYouTuber名の「ガーシー」が議員の名称として許可されました。しかも国会に出席せず、滞在するドバイからオンラインでのみ議員活動を行うというものです。

そうしたやり方が物議を醸していた2022年8月、岸田首相が新型コロナウイルスに感染し、数日間リモートで公務を行いました。

それを見たガーシー氏はSNSに次のように投稿。

岸田ーーーー お前がよくて、オレはあかんて事はないよなー リモートおおいに賛成 やりやすなったわ― おおきにー」(原文ママ)

首相がオンラインOKなら自分もリモートで問題ないですよね、というわけです。

これまで国会は、ガーシー氏の海外渡航届を許可しないなど、行動をただそうとする動きを見せていました。しかし岸田総理のリモート公務により、一部の永田町関係者も、ガーシー氏の働き方が事実上容認されたようなものと語るなど、トーンダウンしています。
 

国会議員にはどんな決まりがあるの?

ここで国会議員が守るべきルールについて見てみましょう。

国会議員の決まりは大きく分けて3つ。「憲法」「国会法」「議院規則」です。

「憲法」は日本国の全ての法律の頂点にある最高法規です。
「国会法」はたくさんある法律の1つで、国会の組織や運営について定めています。
「議院規則」は各議院における手続きや規律について定めたもので、一般社会でいえば、企業の内規のようなものと考えてよいでしょう。

これほど多くの決まりがあっては、議員の行動はがんじがらめかと思いきや、案外そうではありません。
 

国会議員の活動は意外にも“自由”が認められている? 

「日本国憲法第56条」には、衆参院ともに総議員の3分の1以上の出席がなければ、議事を開けないと規定されています。でもこれは、裏を返せば欠席者が想定されていることを意味します。

「国会法」でも、召集日に集まらなければいけない決まりはありますが、それ以外は出席を義務付ける規定はありません。

そして、国会を欠席する場合の手続きは議院規則等で定められていますが、欠席した場合も即時に議員資格が剥奪されるわけではなく、まずは議長から本人への催促が行われます。

国会議員にはそれぞれ実行したい政治課題がありますから、ある程度の自由が認められているのです。

 

時代遅れの国会に「異端児」が一石を投じる

ここでガーシー氏がオンラインだけで議員活動をする点から、国会の現状を考えてみましょう。

実は日本の国会は時代遅れな部分が多々あります。例えば設備です。本会議場には大きなスクリーンがなく、ウクライナのゼレンスキー大統領のオンライン演説も別の部屋で中継せざるを得ませんでした。コロナ禍をきっかけに国を挙げてオンライン化を推奨していますが、肝心の国会が追いついていないのです。

他にも改善が必要な点がありますが、一方で1つ良い前例があります。

2019年の参議院選挙において、れいわ新選組の山本太郎代表の発案により、重度の障がいのある2人(舩後靖彦参院議員)(木村英子参院議員)が特定枠として当選しました。

これにより、障がいのある人でも議員活動ができるよう、本会議場のバリアフリー工事が行われるという、国会では異例の対応が取られました。

永田町の常識を覆す「異端児」と言われる人が、国会のバリアフリー化を実現させたのです。

国会を欠席し続けているとはいえ、ガーシー氏には約28万もの票が投じられたのですから、ぜひとも国会改革のためにプラスの働きかけをしてくれることが期待されます……という形で、本来であれば結論とするところですが、今回の話はここで終わりません。

なぜなら国会ではいま、ガーシー氏の件など比較にならないほど深刻な問題が起きているからです。
 

自民党議員と旧統一教会との癒着が発覚

7月の参院選中に起きた安倍元総理銃撃事件をきっかけに、多くの自民党議員と旧統一教会(名称変更後の団体名:世界平和統一家庭連合)との関係が明るみに出ています。

旧統一教会は、霊感商法などで多数の被害者を出していると報じられており、世間の注目を集めています。そして、そのような団体と与党である自民党の議員が関係を持っていると分かり、社会に激震が走りました。

これは大変深刻な問題です。もとより、国会議員の責務は「日本国民の生命と財産を守ること」であり、それを実現するための「法律」を作ることが国会議員の仕事だからです。国民を守る立場の人が、国民に多数の被害者を出しているといわれる組織と関係を持つことは、その責務に反していますし、立法がゆがめられる危険性もあります。

そんな別次元の問題が起きたため、国会の慣例といういわば内輪のルールに従わないからといってガーシー氏を批判している場合ではなくなっているのです。

国会議員としての資質を問われ、倫理感に疑問を投げかけられているのは、ガーシー議員だけではないようです。
 

松井 政就プロフィール
作家。国会議員のスピーチライター。政治、文化芸術、スポーツ、エンタインメント分野の記者、事業プランナーとしても活躍。
 

>次ページ:「岸田首相のリモート公務」に関するガーシー氏の投稿を見る

 

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