トーアの運営に関わる人たちが信じるのは
こうした使い方があるから、トーアを当局が潰す、というようなことにはなっていない。犯罪が横行する空間なら取り壊せ、という単純な話ではないのである。
筆者は以前、米マサチューセッツ州のケンブリッジ市にオフィスを置いていたトーアの本部を取材したことがある。女性の権利向上を訴える組織、YWCA(キリスト教女子青年会)の支部のビルで間借りをしていた。今では、本拠地はワシントン州に移っている。運営に関わる人たちは、人権問題などで匿名通信の必要性を信じ、活動していた。
それが、ダークウェブとして悪用され、犯罪の温床とも言われているのである。その二面性を持つ世界を存在させているのが、トーアのシステムなのである。
冒頭の脅迫事件のように、暴力をちらつかせて社会に脅威を与えるために、こうしたシステムが使われているとすれば残念でならない。
山田敏弘プロフィール
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
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