しかし、地域に溶け込み、店の外にも顧客を増やしていくことは、経営を支える大切な仕事です。清掃や配達を続けるうちに、常連客から10万円を超える注文が入ることもあります。
元セブン‐イレブン社員の村尾信一が、新刊『店長、パスタに箸をつけたらお客様がキレました。コンビニで働く外国人たちと店主一家の23年』(飛鳥新書)で描いた取り組みから、チェーン店でありながら地域の商店でもある、コンビニの一面をお伝えします。
※本記事で紹介している商品の購入やサービスの利用により、売上の一部がオールアバウトに還元されることがあります。
全国約5万6000店。看板が同じでも、商売は同じではない
日本には、どのくらいのコンビニがあるのでしょうか。業界統計や各社の発表をまとめた資料によると、2025年度末の全国の店舗数は5万6149店です。
出店と閉店も続いています。日本経済新聞の「2024年度コンビニエンスストア調査」では、新規出店数は1336店で前年度比10.1%増、閉店数は1097店で同19%減でした。閉店がすべて経営破綻を意味するわけではありませんが、多くの店が入れ替わっていることが分かります。
では、店を続けられるかどうかを左右するのは、何でしょうか。
立地や競合店の存在、家賃、人手の確保など、経営にはさまざまな条件が関わります。そのうえで私が注目したいのは、その地域で暮らす人、働く人との関係です。
同じチェーンの看板を掲げ、同じ商品を扱っていても、周囲に住んでいる人も、店を使う目的も違います。コンビニは、一軒一軒が地域に根を張る商売でもあるのです。
皆さんも、地域のお祭りの協賛者にコンビニの名前を見つけたり、店員さんが周辺を清掃したり、近所の家へ商品を届けたりする姿を見かけたことはないでしょうか。
私が新刊で描いた、東京・港区のコンビニオーナー、坂本さんも、売上をどう伸ばすかに頭を悩ませていました。2号店の出店に向け、売上の目標をクリアする必要があったからです。
そこでまず考えたのは、季節商品の予約を増やすことでした。
クリスマスケーキやチキン、お歳暮、おせち料理。3000円のケーキを100個売れば、売上は30万円になります。複数の商品で予約を積み上げれば、まとまった上乗せが見込めます。
ただし、計算どおりにはいきません。周辺の住宅をいくら回っても、予約は一件も取れませんでした。突然訪ねてきた相手から商品を勧められても、話を聞こうとは思わない人もいるでしょう。
商品があることと、買ってもらえることの間には、思った以上の距離があったのです。
毎朝の清掃が、地域の顧客とつながるきっかけに
そこで坂本さんが始めたのは、店の周辺の清掃でした。中国人スタッフの趙さんと向かったのは、店から100メートルほど離れた公園です。道には菓子の袋や空き缶が落ち、公園のベンチには、食べ終えたカップ麺の容器が残されていました。自分の店で売ったものと思われるごみもあります。
二人が拾っていると、年配の女性が声をかけてくれました。
「感心だねえ。きれいになると、みんな喜ぶよ」
坂本さんは、自分の店で買ってもらった商品も多いので、片づけるのも店の仕事だと思っている、と答えました。それから毎朝9時に、スタッフ一人と1時間、周辺を掃除することにしたのです。
清掃を続けるうちに、顔見知りが増えていきました。公園でゲートボールをしていた人たちと話すと、皆さん、すでに店を利用してくれていました。
「ハンバーグがおいしい」
「おいなりさんが一番」
「あたしは、ざるそばのファン」
レジで顔を見たことはあっても、何が好きなのか、どんな集まりに参加しているのかまでは知りませんでした。
坂本さんは、次に集まる時、必要な商品があれば公園まで届けますよ、と提案しました。すると、別の相談も持ちかけられたのです。
「二丁目の田中さんのところにも行ってみたら? あの人、買い物に苦労しているから」
掃除をして、挨拶を交わし、話を聞く。その過程で、店が役に立てる場面が少しずつ見えてきました。
店に来られない人へ届ける。個別配達から生まれた予約注文
高齢の田中さんの家を訪ねると、日々の買い物で何に困っているのかが分かりました。毎日出かけるのは億劫で、一度に持って帰れる量も限られる。配達を頼みたくても、どう注文すればよいのか分からない。近くに家族もおらず、ちょっとした不便を気軽に頼める相手がいませんでした。
坂本さんは、弁当や総菜、パンなどの写真を並べた、手製の商品案内を見せました。
田中さんが選んだのは、サンドイッチ、ハンバーグ、小松菜のおひたしでした。
「ご飯は自分で炊いているから、パンの方がいいわね」
この言葉には、商売を考えるうえで大切なことが表れています。
高齢者だから、和食や煮物を好むとは限りません。ご飯は自分で用意できるから、店には別のものを求めている。年齢だけでは、その人に必要な商品は分からないのです。
販売情報を記録するPOSデータは、何が売れたかを教えてくれます。しかし、買い物に来られずにいる人の事情までは、売上の数字には表れません。
その後、趙さんが週に2回ほど、田中さんの家へ配達するようになりました。
前日に注文を聞き、翌日に届ける。そうした付き合いの中で、年末商品のパンフレットを持参した時のことです。
田中さんは、おせち料理の写真を眺めながら、正月には息子夫婦が孫を連れてきてくれるかもしれない、と話しました。
その時のために、おせちを申し込んでおきたい。ただ、来られなければ、一人では食べきれないかもしれない。それでも、こう言ったのです。
「お正月なんだから、気分だけでも味わいたいじゃない」
おせちを買う理由は、食事の用意を省くためだけではありません。家族を迎える準備であり、正月を楽しみに待つ気持ちでもある。その人が商品に何を求めているのかは、会話を重ねて初めて分かることがあります。
会社の納会から町内の祭りまで。店の外にある大口注文
店の周辺には、住宅だけでなく、多くの会社や事業所がありました。昼どきに来店する常連客の中には、近隣で働く会社員もいます。坂本さんは、その一人、吉村さんが勤めるアパレル会社を訪ねました。
「年末の納会で必要な物があれば、うちの店で用意できないかと思いまして」
すると、酒類や飲料、オードブル、総菜、サンドイッチ、チキン、菓子に加え、紙皿、割り箸、ウェットティッシュまで注文が入りました。合計金額は10万円を超えました。
一人の常連客とのつながりから、会社の行事に必要な品々を、まとめて用意する仕事が生まれたのです。
普段のレジでのやり取りだけでは、目の前のお客さんが納会の準備をする立場にあることも、そのために何を買いそろえる必要があるのかも、なかなか分かりません。
身近な店で食べ物も飲み物も備品も頼めるなら、幹事にとっては助かります。相手の用事に合わせて商品を提案することで、店に任せてもらえる仕事も広がっていきます。
商店会からも、仕出し弁当30個の注文が入りました。
坂本さんは清掃のほか、祭りの準備や会合にも顔を出していました。普段から付き合いがあったからこそ、行事の食事をどこへ頼むか考えた時に、店を思い出してもらえたのでしょう。
やがて商店会から、年間行事予定表が届きました。正月の餅つき、節分、夏祭り。黄色い印のついた日には、弁当を30個ずつ届けてほしいという依頼です。
地域への配達、年末商品の予約、会社や商店会からの注文。それらを積み上げ、予約商品だけで月の売上を100万円近く上乗せできる見通しが立ちました。
地域の「困った」に応える仕事が、店の経営を支える
こうした経験は、スタッフにも変化をもたらしました。当初、趙さんは日本人のお客さんへ商品を勧めることに自信がありませんでした。何と言えばよいのか分からず、予約を取るのも怖いと感じていました。
その趙さんが、自分から尋ねるようになったのです。
「オーナー、次は何を売りますか?」
坂本さんは、こう答えました。
「売る物を考える前に、まずは外へ出よう」
掃除でも、配達でも、祭りの手伝いでもいい。店の中にいるだけでは分からないことが、外にはたくさんあるからです。
毎週、公園で仲間と会う人。買い物の荷物を持ち帰るのが難しい人。正月に家族が来るのを待っている人。会社の納会や、町内の祭りを準備する人。
同じ店の周りでも、必要とされる商品や届け方は、一人ひとり違います。そこに気づくためには、相手の話を聞く時間が必要です。
坂本さんの取り組みで私が大切だと思うのは、地域の人々を知り、その暮らしの中で店にできることを探した点です。
「何を売ろうか」と考える時、その前に「近くの人は、何に困っているだろうか」と尋ねてみる。必要な時に、必要な商品を届ける。その積み重ねが、「今度もあの店に頼もう」という信頼につながっていきます。
私たちが普段、コンビニのレジで買い物をするだけでは見えないところにも、店を支える仕事があります。地域の暮らしに関わり、頼りにされる存在になる。そうした地道な努力が、地域への貢献と店の経営を結びつけているのです。 この書籍の執筆者:村尾信一 プロフィール
1967年大阪生まれ。セブン‐イレブン・ジャパンに30年間勤務し、店舗指導の責任者やお客様相談室など幅広いマネジメントを歴任。2025年の退職後は(株)Hands UP取締役として若手育成に携わる傍ら、執筆活動を展開。『鈴木敏文の遺言』『店長、パスタに箸をつけたらお客様がキレました。』など著書多数。



