AIの急速な進化と安全性をめぐる議論が続く一方、AIはすでに「人を評価する側」へ入り始めています。審査や採用、人事評価などで、理由も分からないまま「システムがそう判断しました」と告げられたら、納得できるでしょうか。
心療内科医・産業医の海原純子さんは、目に見える成果だけを評価すれば、数字にならない仕事ほど低く見積もられ、人を支える役割が組織から失われかねないと指摘します。問題はAIそのものではなく、人間が何を「価値ある仕事」と定めるかにあるといいます。
海原さんと、ITコンサルタントのラスカウスキー照美さんの共著『AIに心を預けて大丈夫か 相談・恋愛・ビジネス・教育から見えてきた人間の未来』(飛鳥新社)から一部抜粋し、AIによる評価が見落とす「何も起きなかったこと」の価値と、企業に必要な評価の視点を紹介します。
※本記事で紹介している商品の購入やサービスの利用により、売上の一部がオールアバウトに還元されることがあります。
「システムがそう判断しました」で尊厳まで否定された
2026年の初め、スマートフォンを買い替えようとドコモショップを訪れた。購入を希望したのは最新機種のiPhone 17 Pro Maxである。以前と同じように24回払いを申し込んだところ、審査で断られた。
思わず「なぜですか」と尋ねたが、店員は「導入している審査システムによるものです」と答えるだけだった。借金もローンもなく、税金も納め、クレジットカードの支払いを滞らせたこともない。思い当たる理由がまったくなかった。
頭をよぎったのは、女性であること、年金受給前であること、年齢、あるいは大学を定年退職して現在はフリーランスで働いていることなどが、アルゴリズム上のリスクとして判断されたのではないか、という想像だった。
もちろん真実はわからない。夫は私より年上で年金収入だけだったが、問題なく分割払いが認められたため、なおさら釈然としなかった。
帰宅後、審査会社のホームページを見て理由を調べようとしたが、途中でやめた。
ショックだったのは、審査に通らなかったことよりも、なぜそう判断されたのかがまったくわからないことだった。数百万円の住宅ローンならともかく、スマートフォン一台の購入で「信用できない人」と判定されたような気持ちになり、自分の尊厳まで否定されたように感じたのである。
一方で、企業側から見れば、年齢や収入、雇用形態など一定の条件でリスクを予測し、機械的に判断するほうが効率的なのだろうとも思った。
この出来事をきっかけに、人を評価するという行為そのものをAIやアルゴリズムに委ねる時代が、すでに始まっているのではないかと考えるようになった。
もし採用試験や人事評価、昇進の判断までAIが担うようになったら、働く人の心にはどのような影響が及ぶのだろうか。
数字にならない仕事は消えていくのか
最近、経営陣ががらりと変わった企業がある。私が15年ほど産業医を務めている、従業員約1500人の会社だ。新しい経営陣は売上至上主義を掲げ、急速なリストラが進められ、社員数は1000人を切った。
「残業はするな。しかし効率よく売り上げを伸ばせ」というのが新たな方針だった。人事や総務は直接利益を生まないという理由から、給与ランクは営業や現場部門より低く見直された。
人事総務の社員からは、「給料が下がったこともつらいけれど、それ以上に、自分たちの仕事は不要だと評価されたようで苦しかった」という声を聞いた。
その人事部門には、40代後半のAさんという女性がいた。産業カウンセラーの資格を持ち、勤続20年。産業医面談の日程調整だけではない、休職中の社員に定期的に連絡を取り、主治医や産業医との橋渡しをし、長時間労働者や適応障害、うつ病のリスクが高い社員に声をかけ、面談につなげる役割を担っていた。
しかし、この仕事は売り上げには結びつかない。成果も数字では見えにくい。そのため経営陣には価値が伝わらなかった。さらに、その重要性を経営陣に説明できる立場の人もいなかった。
半年ほどたったころ、Aさんは「評価が下がり、給料も減ってしまって、仕事への意欲がなくなりました」と話していた。その後も我慢して働き続けたが、体調を崩した。年齢を考えれば転職は簡単ではない。それでも、「もうこの会社では働きたくありません」と希望退職を選んだ。



