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収入や資産が増えるほど「比較」が始まる
さらに問題なのは、収入や資産が増えるほど「比較」が始まることです。
・同じ会社のあの人より少ないかもしれない
・もっと稼いでいる人がいる
・SNSではもっと豊かそうな人が目に入る
こうして、お金は本来の役割である「生活を支える手段」から、「自分の価値を測る物差し」へとすり替わっていきます。そして気づかないうちに、「まだ足りない」「もっと必要だ」という感覚に追い込まれていく。これが、“お金の不安が消えない構造”です。
心理学の研究では、幸福に影響を与える要因として一貫して指摘されてきたものがあります。人間関係の質、健康状態、社会的なつながり、そして自分自身の行動に対する納得感です。
これらはどれも、所得が増えれば自動的に手に入るものではありません。年収が1000万円になっても人間関係が希薄であれば孤独感は消えませんし、いくら資産があっても「これは自分が選んだ人生だ」と思えなければ、心の満足にはたどり着けません。
どれだけ稼いでも、どれだけ増やしても、それだけでは必ず幸せになれるとは限りません。これが「お金があれば幸せ」という考えが成り立たない本当の理由です。
お金にできない期待までするから、おかしなことになる
ただし、ここで大切なことがあります。「お金なんていらない」「お金は幸せに無関係だ」という話では決してありません。
お金が足りない状態は、不安や制約を生み、幸せを感じる余地そのものを狭めてしまいます。日々の生活費が足りない、将来の見通しが立たない、毎月ぎりぎりで息つく暇もない。こうした経済的な不足は幸福度を確実に削ります。
この位置づけを取り違えたとき、私たちは奇妙な矛盾に陥ります。
お金を増やしているのに安心できない。正しいことをしているはずなのに不安が消えない。その矛盾の正体は、本来お金には果たせない役割を期待しすぎていることにあります。
では、私たちはお金とどのように向き合えば良いのでしょうか。
答えは簡単で、お金を「増やす対象」ではなく「整える対象」として見ること。いくら増やしても不安が消えない人と、そこまで多くなくても安心して生きている人の違いは、持っている金額ではなく、お金との関係性にあります。
不安に追われて使うお金は、いくらあっても足りない。安心から選ぶお金は、少なくても満たされます。だからこそ大切なのは、「いくら持っているか」ではなく「どんな状態でお金を使っているか」なのです。
お金は、人生の主役ではありません。でも、人生の土台にはなります。その土台の上で、何を感じ、何を選び、誰と生きるのか。それを決めるのは、いつだって“自分自身”です。
ここから先に必要なのは、もっとお金を手に入れることではありません。お金と幸せの関係を正しく理解し直すことです。
お金の役割を正しく位置づけることができたとき、お金は不安の源ではなく、自分の人生を支える力強い味方として、初めてその本来の力を発揮し始めてくれます。
この書籍の執筆者:櫻井かすみ プロフィール
ファイナンシャル・ウェルビーイング研究者、ママ金融教育家、ファイナンシャルプランナー。株式会社トウシナビ代表。投資詐欺や貯金ゼロなどを経験した後、資産形成を実践。現在は大学院で「お金」とウェルビーイングについて研究している。著書に『投資への不安や抵抗が面白いほど消える本』『母が子に伝えたい大切なお金と社会の話』(いずれもGakken)などがある。



