初めてボーナスをもらった日のことを覚えていますか? 口座に振り込まれた金額を見た瞬間は、あんなにうれしかったのに、収入が増えた今は「去年より多いか」「いくら引かれたか」が気になる——。なぜ、お金を増やしても安心できないのでしょうか。
ファイナンシャル・ウェルビーイング研究者の櫻井かすみさんによると、その背景には、喜びへの「慣れ」と他人との「比較」があるといいます。こうして「まだ足りない」という不安をまとったまま使われるお金を「不安通貨」と呼んでいます。
この記事では、櫻井さんの著書『不安通貨 貯金や投資で消えない「お金の不安」を最新科学で解決』(Gakken)より一部抜粋し、収入が増えても心が満たされない矛盾の正体を紹介します。
※本記事で紹介している商品の購入やサービスの利用により、売上の一部がオールアバウトに還元されることがあります。
頑張って収入を増やしても「満足感」が得られない理由
「お金があればもっと幸せになれる」。そう信じて、私たちは働き、学び、貯め、増やしてきました。
でも実際には、収入が増えても資産が増えても、思ったほど心が満たされないと感じる瞬間があります。それどころか「これで本当に大丈夫なのだろうか」という不安がかえって増してしまう人も少なくありません。
なぜでしょうか。その答えは、幸福感を本当に左右している要因が、金額の大小とは別のところにあるからです。
お金が増えると、できることや選択肢は確かに増えます。好きな場所に住める、好きなものが食べられる、将来への備えも厚くなる。
けれども「安心した」「満たされた」「納得できた」という実感は、金額に比例して増していくわけではありません。
人の幸福感を本当に左右しているのは、誰かとつながっているという感覚、自分で選んでいるという実感、心身が健やかであること、将来に対する漠然としたゆとりといった、お金では“直接買うことのできない”要素なのです。
初ボーナスの喜びは、なぜ続かない?
思い出してみてください。初めてのボーナスをもらった日のことを。封筒を開けた瞬間、あるいは口座に振り込まれた額を見た瞬間のあの嬉しさ。あの感覚は、10年後、20年後のボーナスでも同じだったでしょうか。
もし今は金額が最初の2倍になっていたとしても、喜びは2倍にはなっていないはずです。
最初のころは「やった、自分のお金だ!」と純粋に喜べたのに、いつしか「手取りからいくら天引きされた」「去年より増えたのか減ったのか」と数字の精査が先に来るようになっていた……。そんな方も少なくないのではないでしょうか。
この変化は、決してあなたの感覚が鈍くなったからではありません。むしろ、人として自然な反応なのです。人は「慣れる生き物」。
心理学ではこれを「快楽順応(「ヘドニック・アダプテーション」あるいは「ヘドニック・トレッドミル」とも)」と呼びます。
最初は特別だった収入も、やがて“当たり前”になっていく。当たり前になると、そこにあった喜びや安心は感じにくくなります。



