講師はぶっきらぼうな口調で授業をするが、その一つひとつの説明が細かく分かりやすい。授業後、この講師に質問しにくる生徒はほぼいないという。なぜなら授業の内容が明瞭なので生徒は質問をする必要がないのだ。
かつての予備校にはこういった「スター講師」がたくさん存在した。
その様子を描いて話題になっているのが『予備校盛衰史』(NHK出版・小林哲夫)だ。大学受験の対策のために予備校に通った世代が読んでいる。
予備校の授業には、学校とは違う独特の魅力があったと懐かしく思う読者が多いようだ。彼らは「とにかく授業が面白かった」という。その理由はどこにあるのだろうか。
※本記事で紹介している商品の購入やサービスの利用により、売上の一部がオールアバウトに還元されることがあります。
予備校の授業が「とにかく面白い」理由
「予備校は生徒が集まらなければ成立しません。いわば人気商売です。だからこそ講師には、分かりやすさだけでなく、引き込む力が求められます。単に知識を伝えるだけではなく、話術やテンポ、例え話の巧みさによって、受験生を飽きさせない工夫が徹底されています」と著者の小林哲夫さんは話す。面白さが単なるエンターテインメントに終わらない点も重要だ。予備校の授業は、「合格に直結する知識や技能」を教えなくては意味がない。
なぜ、予備校が必要なのか。高校は教育指導要領に沿って基礎学力が身につくよう指導をしていく。高校は大学入試の問題の解き方を教えるのは専門分野ではない。
そうなると、その大学入試の具体的な解き方を教えることを担うサービスが必要になってくる。それが予備校なのである。予備校の講師たちは入試試験の突破方法を教えていく。
英語の読み方、数学の解法、現代文の論理——それらが、生徒がしっかりと理解できるよう整理され、記憶に残るように提示される。面白さと実用性が両立していることが求められるのだ。
『予備校盛衰史』では、1980年代から90年代に活躍した代々木ゼミナールの英語四天王講師たちを取り上げている。その1人の富田一彦氏は、「英語を前から読んではいけない」と説き、一点のあいまいさも残さない精微な構文分析を求めたとのことだ。
「教養の広がり」という魅力
さらに、予備校の授業で印象的なのは「教養」の広がりである。人気講師たちほど、受験範囲を少し超えた話をする。文学の背景、歴史の構造、現代社会とのつながり。そうした話は「入試対策の実用性」はないが、生徒の「世界の見え方」を変える力を持つ。何十年たっても、思い出せるようなエピソードが残るのは、この部分の影響が大きい。こうして見ると、予備校の授業の面白さは、「話術」「受験知識」「教養」という3つの要素の掛け合わせにあるといえるだろう。そしてその根底には「生徒に選ばれる」という緊張感がある。
学校の授業がつまらなくても、生徒は高校卒業資格をとるために学校に通う。しかし、予備校の授業がつまらなければ来なくなる。反対に面白く役に立つ授業をすれば、生徒たちが「あの先生の授業はめちゃ分かりやすくて面白いよ」と同級生に話し、口コミで生徒が増えていく。



