3:『平成狸合戦ぽんぽこ』『魔女の宅急便』からの強い影響も
本作の「自然を脅かす人間と動物たちの対立」という構図から、高畑勲監督の『平成狸合戦ぽんぽこ』を思い出す人が多いでしょう。 実際にダニエル・チョン監督は、そちらから強い影響を受けたことを明言しています。特に「人間が自然に与える影響」「自然がどう対処し適応していくか」というテーマは、本作の大きなアイデアを形づくるうえで非常に重要な参照点になっていたのだとか。さらに、『平成狸合戦ぽんぽこ』からの影響は、動物たちそれぞれの「擬人化」の表現にもあったようです。『私がビーバーになる時』の劇中では、普段の動物たちは「点のような目」をしたリアルな姿ですが、主人公が動物ロボットへと意識を移すと、動物たちそれぞれが「大きい目をしていて表情も豊か」へ変わったりするのですから。
さらに、ダニエル監督は自身の娘が『魔女の宅急便』が大好きなこともあって、無意識のうちに共鳴している部分があることを語りつつ、そちらの主人公のキキが居場所を見つけようともがく姿が『私がビーバーになる時』の主人公・メイベルそのものだとも考えていたようです。 そうしたスタジオジブリ作品のみならず、「日本」へのリスペクトもあったりします。何しろ、主人公であるメイベル・タナカは、苗字から分かる通り、日本人の血を引いているのです。
実際に、ダニエル監督は日系アメリカ人が多く住む郊外で育っており、その経験がメイベルのおばあちゃんが「なまりのない英語」を話すことにも反映されていたのだとか。劇中の食事も「当たり前に日本的」であったりするので、そのことにもぜひ注目してほしいです。
4:現実の自然にあった出来事も参照していた
本作はもちろんフィクションですが、実は1920年代にアメリカのイエローストーン国立公園で起こった出来事を参照しています。ダニエル・チョン監督によると、その地域では人間の手によってオオカミが駆除されたため、天敵を失った鹿の一種であるエルクが急増し、そのエルクが植物の新芽を食べ尽くしたことで森の再生が止まり、鳥の生息地が消失するという、生態系のバランスが長年に渡り大きく崩れる事態になってしまったそうです。
その生態系の回復に貢献したのが、川をせき止めてダムを築くことで、自らの生息環境を作り出す「自然界の土木技師」として知られるビーバーだったといいます。
ビーバーの作ったダムのおかげで水の流れが緩やかになり、池や湿地が形成されると、魚や両生類、昆虫、植物など多様な生物が集まり、生物の多様性が大きく向上したのだそうです。
5:「耳を傾ける」ことの重要性を説いている
『私がビーバーになる時』は、主人公メイベルの「森を守りたい」という純粋な願いが、やがて「市長の殺害計画」にまで発展し、その後にも「取り返しのつかない悲劇」が描かれます。そこからの「再生」と、そして「耳を傾けること」の大切さを説いていることに、大きな感動がありました。メイベルはおばあちゃんから、森の音や動物たちの鳴き声を聞くこと、そして自分が「大きなものの一部」であることを説いていました。しかし、分断と対立がエスカレートし、さらには怒りの感情のために、そうした声を聞くことができず、間違った行動をしてしまうことは、誰の身にも起こり得るでしょう。 その大きな反省と学びを経て、さらに「コミュニケーション」と「テクノロジー」の両方を意外な形で肯定するラストでは、心の中で拍手をして、落涙するしかありませんでした。
誰かの声を聞こうとすることで、悲劇は防げるかもしれないし、過ちを経てやり直せるかもしれない、と希望を持つこともできるでしょう。クレイジーでアナーキーでぶっ飛んでいたけど、本当に素晴らしい物語でした!
参考記事:
ピクサー最新作に“ジブリのDNA”――監督&プロデューサーが告白 『トトロ』『ぽんぽこ』『魔女の宅急便』が創作の源に | オリコンニュース(ORICON NEWS)
『私がビーバーになる時』ピクサー初の日系人ヒロインはこうして生まれた|シネマトゥデイ
この記事の執筆者:
ヒナタカ
映画 ガイド
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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