ヒナタカの雑食系映画論 第217回

『パリに咲くエトワール』なぜ殺陣作画監督とメカデザイン? 見る前に知ってほしい8つのこと

劇場アニメ『パリに咲くエトワール』における「バレエ作画監督と振付師」「殺陣(たて)作画監督」「メカデザインとメカ作画監督」のスタッフが具体的に手掛けていたことなど、見る前に知ってほしい要素を解説しましょう。(画像出典:(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会)

パリエト
劇場アニメ『パリに咲くエトワール』 大ヒット上映中! 配給: 松竹  (C)「パリに咲くエトワール」製作委員会
『パリに咲くエトワール』が3月13日より劇場公開中です。本作は原作のないオリジナル作品であり、『ONE PIECE FILM RED』の谷口悟朗監督、『魔女の宅急便』のキャラクターデザイン・近藤勝也、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の脚本家・吉田玲子という磐石の布陣で送り出されています。

前置き:老若男女へ素直におすすめできる「とても丁寧に作られたアニメ」だけど……?

その本編は、老若男女に大推薦できる、見た後は元気がもらえる、「とても丁寧に作られたアニメ」の理想形といえる完成度でした。
パリエト
(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会
もっとピンポイントにおすすめすると、「薙刀(なぎなた)で戦う長身でおかっぱの女の子が実はバレエに憧れていて一生懸命頑張る」「リボンの似合う天真爛漫(らんまん)な女の子が応援する」尊さ。それを真っすぐに届けていたので、その関係にビビッと来た人は絶対に映画館で見てください

予告編やビジュアルから多くの人が想像する物語とは(おそらく)少し異なること、「バレエ作画監督と振付師」「殺陣(たて)作画監督」「メカデザインとメカ作画監督」というスタッフがいた理由、さらには予定調和にならない(ここは好みは分かれるかも?)要素もあることも知ってほしいです。
大きなネタバレにならない範囲で、見どころをまとめていきましょう。

1:「主人公は友達を応援する立場」だけど「早くから行き詰まってしまう」

本作の舞台は1912年のパリで、描かれるのは2人の日本人の少女がたくましく生きる姿。画家を夢見るフジコと、バレエに心惹かれる千鶴という2人ともが、親から望まれていることとは違う道を選んでいることが重要でした。

フジコは夫を支えるよき妻となる将来を望まれながらも、絵の勉強のためにパリにやってきます。一方で千鶴は武家の家系に生まれた薙刀の名手ながら、バレエに心惹かれていました。
パリエト
(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会
今よりもさらに女性が画一的な生き方を押し付けられていた、しかも戦火が目の前に迫る困難な時代にあってもなお、2人が本当に好きなことを諦めない姿がまぶしく見えるのですが……実は、千鶴が夢に確実に突き進んでいく一方で、フジコは早くから挫折してしまうのです。
パリエト
(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会
千鶴はロシア出身のバレリーナから厳しい指導を受け、東洋人であることでのハンデも感じていて、バレエを学んでいることを両親になかなか打ち明けられずにいますが、それでも努力を続けていき、その才能もはっきりと分かっていきます。

一方でフジコは、保護者である叔父さんが突如として失踪してしまい、帰国を促されてもなんとか仕事を見つけてパリでの暮らしにしがみつき、バレエにいそしむ千鶴のサポートをして、さらに多くの人と出会うのですが……。
パリに咲く
(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会
フジコは肝心の自身の絵については何も学べていない、それどころか絵を描く時間もないという状況が続き、その後にはとある絶望そのものといえる感情を吐露してしまうのです。

2:「このための物語」と気付くことに感動がある

2人の少女が共に夢に向かって励み合っていく物語かと思いきや、「自分だけが早くから行き詰まってしまう」どころか「夢のために何もできないでいる」ことに、もどかしさを覚える人は確実にいるでしょうし、そこは好みが分かれるところでしょう。

しかし、筆者はそれこそが『パリに咲くエトワール』の本質だと思いました。

自分が友達を応援する気持ちにウソはないし、自分は夢を諦めていないはず。でも、そのことがまた彼女を苦しめる……では、どうしたらその夢に対して何もできない状況を打ち破ることができるのか?という問いからの答えがとても鮮やかで、「このための物語だったんだ」という大きな感動があったのです。
そのフジコが塞ぎ込むばかりか、元々持っていたはずの力さえも出せなくなってしまうというのは、『魔女の宅急便』の主人公・キキが魔法の力を失ってしまうこともほうふつとさせます

『魔女の宅急便』はファンタジーでありながら現実にある仕事や夢についての物語になっていましたが、『パリに咲くエトワール』はよりリアルに夢の挫折や希望を描いた作品といえるでしょう。

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