しかし、グロービス経営大学院教授の森暁郎氏は、著書『世の中のことも自分のこともみるみるわかる お金の「選択」 人生の節目に役立つファイナンス超入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中で、「退職金はファイナンス的に損である」と断言します。
一見すると社員思いの優しい「退職金制度」に隠された“冷たいカラクリ”と、後悔しないキャリアの選択について、同書より一部抜粋・編集して紹介します。
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退職金はあてにしない方がいいの?
皆さんの老後の生活に大きく影響するものの1つが、退職金です。定年が近い人や、今の会社で最後まで勤め上げようという人ほど関心を持っていますが、 転職を前提にキャリアを築こうとする若い世代では、意識が薄い人も多いかもしれません。
退職金とは、会社を退職するときに支給される一時金のこと。目的は主に、①長期勤続への報奨・感謝、②老後生活の支援です。
日系企業は生涯報酬の中で退職金の比重が高く、欧米のグローバル企業に比べて「退職金ありき」で給与水準を設計しているケースが多いのが特徴です。
長期雇用を前提とした年功序列制度と相性がよく、勤続年数が長いほど報奨が大きくなる仕組みです。
退職金は「報酬の後払い」であり、ファイナンス的には損
では、私たちはこの退職金をどう考え、どう向き合うべきでしょうか。この退職金制度は、実は冷たく、そして危うい構造をはらんでいると、私は思っています。
「現在価値」の理論でいえば、「現役時代の報酬を抑えて、退職時にまとめて報いる」という仕組みは、リターンを将来に後回しにする構造です。
ファイナンスの原則に照らせば、それは損です。
老後2000万円問題の例でいえば、30年後の2000万円は現在価値に直すと約465万円にしかなりません。
つまり将来の退職金は、見かけほど価値が大きくないのです。
大谷翔平の契約に見る「目的最適」と「時間的損得」
話は少し飛びますが、大谷翔平がドジャースと結んだ契約をご存じでしょうか?詳細は非公開ですが、契約総額の97%が契約終了後に分割して支払われるという、極めて異例の「後払い型」です。これはチームの補強資金を確保し、自らの年俸を意図的に抑えるという選択でした。
「お金は先にもらうほうが価値が高い」というファイナンス理論的にも明らかに損です。
それでも彼は「チームの強化や勝利を最優先したい」という目的のために、その契約を受け入れたのです。
私のアメリカ人のビジネススクール時代の同級生に、犬に「ドジャー」と名づけるほどの熱狂的なドジャースファンがいます。
彼はヘッジファンド勤務で金融のプロでもあり、出張で来日するたびに食事もしていますが、こう語っていました。
「大谷はファイナンスの損得を超えた存在だ。いわば“the greatest asset in the world”、この地球上でもっとも偉大な資産、宝物だ」



