大好きな愛猫を、自分の手で描いてみたい。そう思ってペンを握ったものの、ガタガタの線に絶望して「やっぱり無理だ」と諦めた経験はありませんか?
猫と暮らして30年、猫を描き続けて20年。イラストレーターの小泉さよさんは、「うまく描けなくても、はみ出した線すら愛おしいのが猫の絵です」と語ります。
思い通りにいかない線と、自由気ままな猫。両者に向き合う時間は、どこか似ているのだそう。本書『ねこの描き方れんしゅう帖』(日東書院本社)の著者に、絵心に自信がない猫好きでも「私だけの猫」が描けるようになる、心の整え方を聞きました。
「うまく描く」より「猫とのつながり」を
——そもそも「ねこの描き方」をテーマにした本を書こうと思ったきっかけは?
小泉さん 「出版社からご依頼をいただいたというのが率直な答えではありますが、以前から描き方の本や作品集など作品を載せることのできる本を出せたらなと思い描いていたので、ご依頼はとてもうれしかったです」
——本書は、「上手に描く」ことをゴールにした描き方本ではありません。その姿勢は、タイトルにも表れていると思いますが、「れんしゅう帖」とつけた理由は何だったのでしょうか。
小泉さん 「読者の皆さまが猫を描くことによって、猫とのつながりをもっと強く持てたらすてきだなと思いました。『れんしゅう』と平仮名にしたのは、老若男女問わず手に取っていただけたらうれしいと思ったからです」
猫も絵も「思い通りにいかない」から愛おしい
——線が揺れる。形が定まらない。そんな描画中の感覚は、猫と暮らす日常にもどこか重なります。猫を描くことと、猫と暮らすことに似ていると感じる点はありますか?
小泉さん 「マイペースでいられる点でしょうか。猫と一緒にいても、絵を描いているときも、マイペースでいられる自分を感じることができるのかもしれません。というより、マイペースで絵を描くことはとても大事だと思っています」
——猫と暮らす中で感じる「思い通りにいかない愛おしさ」は、絵を描くときの感覚とも重なりますか?
小泉さん 「確かに猫も絵も思い通りにいかないことが多いですね(笑)。思い通りにいかない猫が愛おしいように、絵が思い通りにいかないことも愛おしく思えたら素晴らしいと思います」
はみ出した線も、揺れた線も、消さなくていい
——描いている途中で生まれる「失敗した線」をどう扱うかにも、小泉さんのスタンスが表れているように思います。描いている途中で「これは失敗だな」と思った線や絵を、どのように扱っていますか?
小泉さん 「クロッキーやスケッチと、作品になるとで少し変わってきますが、練習としてのクロッキーなどは間違った線も消さずに重ねます。猫が動いてしまうなどで線を変えなくてはいけないこともありますが、そうでないものも残していくことで練習になると思います。作品になると失敗した線は消します。微妙な違和感を減らしていく、というイメージで線を修正していきます」
——小泉さんにとって「一番猫らしい線」とはどんな線でしょうか?
小泉さん 「『猫は液体』と表現されることがあるように、とても柔軟で捉えにくい猫ですが、柔らかさのなかにもしっかり骨格が入っているので、首や脚のつき方、背骨、尻尾の先まで骨を意識して描く、でも猫の柔らかさは失われていないような線が猫らしいと思います」
じっと見つめるほど、猫は美しくなる
——猫を描くことで、猫の見え方が変わったと感じる瞬間はありますか?
小泉さん 「猫を描くためによく見ていくにつれ、本当に美しい生き物だなぁと感じます。愛おしくてかわいい存在であると同時に、その美しさに見とれてしまいます(笑)。何千年も前からあまり姿は変わっていないのに、ずっと愛され続けている理由みたいなものに思いをはせたりしてしまいます。毛づくろいしていたり、水を飲んでいたり、寝ていたり、どんなポーズの猫も描くことでもっと愛おしくなっているように思います」
——「描くのが苦手な猫好き」に声をかけるとしたら?
小泉さん 「うまく描こうとしなくていいと思います。猫も絵も、マイペースで向き合うことが大切ですから」
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この書籍の執筆者:小泉さよ プロフィール
東京都生まれ。おもに猫を描くフリーイラストレーター。東京芸術大学卒業、同大学院修了。著書に『猫ぱんち―二匹の猫との暮らし―』『和の暮らし』『もっと猫と仲良くなろう!』『さよなら、ちょうじろう。』『うちの猫を描こう!』など、共著に『猫のいる家に帰りたい』など。
公式サイトhttps://www.sayokoizumi.com



