ヒナタカの雑食系映画論 第201回

なぜ満席続出? 傑作にして怪作映画『WEAPONS/ウェポンズ』ネタバレなしで知りたい3つのこと

世界中で大ヒットを飛ばした映画『WEAPONS/ウェポンズ』が日本でも満席続出となりました。なぜ本作が「ネタバレ厳禁」であるのか?作品の魅力と共にたっぷり解説しましょう。(画像出典:(C) 2025 Warner Bros. Entertainment. All Rights Reserved)

1:『呪怨』を思い出す構成の「もどかしさ」が重要だった

『WEAPONS/ウェポンズ』の最大の特徴と言っていいのは、「キャラクターごとの章立ての構成」かつ、それぞれの章で「同じ(あるいは少し進んだ)時間軸での違う視点を描いている」という構成です。
ある種の”ザッピング”的な群像劇となっていることから『マグノリア』(1999年)を思い出す人は多いでしょうし、複数の証言のために事件の謎がさらに深まっていく様から『羅生門』(1950年)も連想します。

さらに、ザック・クレッガー監督は『プリズナーズ』(2013年)からもインスピレーションを得ており、同じく失踪した子どもを捜索する重圧なミステリーであることと「色褪せた」「陰鬱とした」画調に似たものを感じられます。

さらに近いと思えたのは、日本のホラー映画『呪怨』シリーズです。そちらは複数の視点かつ時系列が激しくシャッフルされており、恐ろしい出来事の“起点”がどこにあるかが不明瞭だからこその恐怖を呼び起こしていたのですから。

なお、『呪怨』シリーズに対し、『WEAPONS/ウェポンズ』は「なぜか子どもたちが深夜に消えた」という事件を軸にキャラクターの視点が交錯していき、少しずつ時間が前に進んでいく印象もあるため、見ながら混乱することはまずないはず。テクニカルな構成のようで、実はとても「分かりやすい」内容なのです。
ウェポンズ
(C) 2025 Warner Bros. Entertainment. All Rights Reserved
そして、物語はそれぞれのキャラクターの視点で事件の謎の答えに近づいていくのですが、その先で予想だにしない出来事が起きると、“良いところ”で別の人物の視点にパッと切り替わったりします。

「この人がどうなったか知りたいのに、別のキャラの視点に移っちゃうのかよ!」と思う人もいるかもしれませんが、その「もどかしさ」こそが、作品には重要でした。

予想だにしない出来事の理由が気になって気になってしょうがないからこそ、別のキャラクターの視点で真実が明かされ、「そういうことだったのか!」と分かる瞬間には、恐怖を超えて快感すら感じられるのですから。

もちろん、元のキャラの「その後」も、さらに別のキャラの視点でしっかり描かれるので、その快感が積み重なっていく構成になっているのです。
また、『WEAPONS/ウェポンズ』は前述したように連想する映画が多い一方で、予想だにしない展開と、画の強さにより、圧倒的なオリジナリティーも備えていますその方向性はかなり極端なので、賛否が分かれやすい要因にもなっており、本作が怪作と呼ばれる理由ともいえます

なお、公式に「ネタバレ厳禁考察ミステリー」と銘打たれていますが、実際は見終わってみれば劇中に答えがほぼはっきりと描かれています

一方で、上映中は「これはどういうことなんだ?」と頭をフル回転させられる、いわば「現在進行形で考察が捗る」タイプの作品ということも告げておきましょう。

「教室で生徒たちが学んでいたこと」や、「嫌がらせで先生の車に描かれた言葉」にも、そのヒントがあるかもしれません。

2:「正しくなさ」も含めたキャラクター描写の豊かさ。そして三角形の意味は?

本作で優れているのは、キャラクター描写です。それぞれが画一的でも一面的でもないからこそ、たっぷりと思い入れができます。

例えば初めの章で、主人公である小学校の先生・ジャスティンは、「担任クラスの子どもたち17人が深夜に忽然(こつぜん)と姿を消した」ため、保護者たちから激しい非難を受け、説明も求められます。

しかし、彼女にもまったく理由が分からないので、何も答えられないに等しいのです。この状況から身の安全を守るためにも、校長から休職も言い渡されるのも無理はないと納得できるでしょう。
初めこそジャスティンは生徒思いの良い先生に見えるし、保護者たちから一方に責め立てられる様にも同情できます。しかしながら、彼女ははっきりと「正しくなさ」も秘めています。

過去には飲酒運転をしていたし、さらには校長から明確に禁じられた行動にも出てしまいます。どうにも猪突猛進で、人としてのモラルにも少し欠けていて、「気持ちは分かるけど、それは良くないよなぁ」と思えるバランスの人物なのです。

ほかにも、失踪した息子の捜索に躍起になる保護者のアーチャーや、ジャスティンの元恋人の警察官のポールも、「良いところと悪いところが共存している」人間くささがあります。極めて理性的な対応をしている校長のマーカスは「本当に良い人なんだろうなぁ」としみじみと感じられる人柄です。
一方で、窃盗を繰り返しながら小銭を稼いでいる浮浪者のジェームズには、「本当コイツはどうしようもねぇな!」と良い意味で呆れたりもしてしまいます。
そして、物語が核心に近づくと、さらにキャラクターの印象が変わってくる。いや、はっきりと「この人はこの出来事を経て、変わったんだ」と感慨深くなることにも感動があります

それぞれのキャラクターに共感ができるのは、俳優陣の力ももちろん大きいでしょう。特に、ジャスティンを演じたジュリア・ガーナーは、『アシスタント』(2023年)と『ロイヤルホテル』(2024年)で抑圧される女性の苦しさを体現した演技が絶賛されていましたが、今回も不条理な出来事に焦りと恐れを抱きつつ、子どもを大切に思ってくることがとことん伝わるのです。

なお、オープニングとエンドクレジットに登場するタイトル「Weapons」の「o」には「三角形」が描かれています。円の中に三角形が描かれているのはアルコール依存症の自助グループ「アルコホーリクス・アノニマス」のロゴで、登場人物たちがアルコール依存症に苦しんでいることを示唆しているのです。
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「禰豆子のような走り方」の実はショッキングな元ネタ、そして連想したもう1つの作品
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