ミズバショウから動物まで、クマの多様な食事メニュー
ツキノワグマは雑食性で、さまざまなものを食べていることは、いろいろな本に書かれています。
一般的には、やみくもに歩いて目の前のものを食べる、というように受け止められていることが多いのですが、実際にはさまざまな植物の生えている場所を記憶し、毎年の結実状況を確かめ、季節になれば的確に移動するなど、計画的に行動しているのではないかと受け止めています。
・ミズバショウを食べる
人間からみれば、美しい花であると同時に毒草としても知られていますが、ツキノワグマはミズバショウを食べます。春に花を食べることもありますが、大人の腰のあたりまで伸びた大きな葉を食べた跡を、初夏や初秋に見たことがあります。人間にとって有毒な成分でも、クマにとっては毒ではないのでしょう。
ここで重要なのは、同じ場所にたくさん生えていても、食べている葉は数枚に限られているので、明らかに主食として食べているわけではないことです。なにか特定の場面で、人間にとっての薬草のような使い方をしている可能性が高いと考えています。
・動物を襲う
ツキノワグマが動物を襲う場面を見たことがあります。2020年6月20日、兵庫県北部の低山のブナ林でのことでした。
林道の角を曲がったら正面にツキノワグマがいたので、あわてて見えないところまで戻ってカメラのレンズを交換していると、クマは逃げるどころかこちらに向かって走り出します。まずい、と少し離れて身を隠したところ、クマは斜面を下に向かって走り、直後にシカの子どもと思われる悲鳴と、母親のシカの鋭い鳴き声が聞こえました。
藪の向こうに目をこらすと、仔ジカをくわえて歩き去るツキノワグマの影が少し見えましたが、すぐに見えなくなりました。
・ミツバチを襲う
夏になると、ツキノワグマはサクラ類やクワなどの木の実を食べる以外にも、好んで現れる場所があります。それはミツバチの巣です。
養蜂家が並べたセイヨウミツバチの巣箱が襲われることもありますし、自然状態で木の洞に巣を作っているトウヨウミツバチの巣が食べられた跡もしばしば見かけます。
この書籍の執筆者:永幡嘉之 プロフィール
自然写真家・著述家。1973年兵庫県生まれ、信州大学大学院農学研究科修了。山形県を拠点に動植物の調査・撮影を行う。ライフワークは世界のブナの森の動植物を調べることと、里山の歴史を読み解くこと。里山の自然環境や文化を次世代に残すことに、長年取り組む。著書に『クマはなぜ人里に出てきたのか』(旬報社)、『里山危機』(岩波ブックレット)、『大津波のあとの生きものたち』(少年写真新聞社)、『巨大津波は生態系をどう変えたか』(講談社)など。



