死ぬ間際に「もっと貯金すればよかった」と言う人はいない
日本人は昔から、稼いだお金は使うよりも貯蓄に回すことを美徳としてきました。将来への備えを重視し、目先の欲望は我慢する。倹約と節約の精神は、日本人の生活様式に深く根付いています。確かに、将来への備えは大切ですが、ケチケチして貯める必要はありません。人生100年時を見据えたとき、大切なのは「心の豊かさ」を追求することです。
資産を増やし、経済的な安定を得ることは大切ですが、肝心なのは、そのお金をどう使うか。今を充実して生きるために、お金を使うべきでしょう。
多くの高齢者が口をそろえますが、認知症にならなかった場合(なっても古い記憶は結構覚えているものですが)、人間にとって亡くなるときの最大の財産は思い出です。美味しいものを食べ、旅行に出かけ、やりたいことに思い切ってチャレンジしてみる。そうした経験に投資することで、人生はずっと豊かになります。
お金で買えない喜びや感動、そして思い出。それこそが、私たちの心を満たしてくれる大切な財産です。そしてそれは「お金にとらわれない生き方」でかないます。
人生の最終段階にある人からよく聞くのは、「死ぬまでに、楽しい思い出をもっと残しておきたかった」という声です。「お金をもっと残せばよかった」という声はまずありません。後悔しないためにも、ためらわずにお金を使う勇気を持ちたいものです。
「定年後に遊ぼう」は手遅れ。70代の体力低下を甘く見るな
おそらく、50代のみなさんの中には「今は一生懸命働いて、貯めて70歳を過ぎたら好きに使おう」のようにプランを練っている人もいるはずです。ただ、一般論では70歳を過ぎても50代のような健康状態でいられることのほうが珍しいのが現実です。特に男性は、年齢を重ねれば、体力はなくなり外出にもおっくうになりがちです。
「人生は短い」と誰しも口にする一方で、私たちは「あと何年生きるんだろうか」と漠然と考え、つい先のことを優先してしまいます。
でも本当は、誰にも明日のことなんて分かりません。だったら思い切って、今を生きる。体が動けるうちに、行きたい場所に行く。会いたい人に会いに行く。やりたいことを、全力で楽しむ。財産は残さず、元気なうちに使い切る。
50代から「今を生きる」姿勢があれば、お金なんて、ほんの些細なことのように思えてくるはずです。 この書籍の執筆者:和田秀樹 プロフィール
1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。
東京大学医学部付属病院精神神経科、老人科、神経内科にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部付属病院精神神経科助手、アメリカ、カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院である浴風会病院の精神科を経て、現在、川崎幸病院精神科顧問、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック院長、 立命館大学生命科学部特任教授 。



