愛猫家にとって、自分の人生の終わりと同じくらい恐ろしいのは、「もしも」の後に愛する猫が路頭に迷うことではないでしょうか。
愛猫の幸せを確実に守り、飼い主が生きている間から死後まで安心できる環境を用意してあげるために、今できることをしておきたいもの。
11月22日は「わんわん(11)にゃんにゃん(22)の日」。この日を家族同然の愛犬の将来について考えるきっかけにしませんか?
今回は、日本動物科学研究所会の富田園子さんの著書『私が死んだあとも愛する猫を守る本』(日東書院本社)から一部抜粋・編集し、「もしも」に備えて用意しておきたい「ペットのための信託契約(ペット信託)」のメリットと仕組みをご紹介します。
より強力なセーフティネット<ペット信託>
猫のために<遺言書>を作るよりも、じつはもっと役立つ制度があります。<信託契約書>です。「信託契約書って何?」と思う人も多いでしょう。ペットのための<信託契約>、通称<ペット信託>は<遺言書>より役に立つシステムで、いざというとき強力なセーフティネットになってくれます。
<遺言書>は遺言者の死後に効力を発揮するものです。でも、生きてはいても体が不自由になったり認知症になったりして猫のお世話ができなくなる可能性はありますよね。<遺言書>で猫を任せる人を指定していたとしても、あなたが亡くなるまでは、その人に猫をあずけることはできません。
そこをカバーできるのが<ペット信託>なのです。もともとは高齢になった親をもつ人が活用しているシステムで、<家族信託>と呼ばれます。
ご存じかもしれませんが、認知症になると銀行口座が凍結されます。不動産や株などの資産も動かせなくなります。判断能力が低下した人は詐欺に遭うことが多く、資産を守るためにそういった措置が取られるのですが、そうすると家族でも預金を引き出せなくなるため、親の介護資金や生活費を子どもが立て替えねばならず、苦しい事態になるケースが多くありました。
<家族信託>は本人の判断能力のあるうちに、信頼できる人に財産の管理を委任する契約です。しかも財産の使用目的を限定することができるので、意にそぐわない財産の使い込みを防ぐことも可能です。例えば「自分の老後の生活・介護等に限る」といった具合です。65歳以上の約5人に1人は認知症になるといわれるいま、注目の制度となっています。
ほかに、障害のある子をもつ親御さんにもこの<家族信託>が利用されています。
自分が年老いてきて子どものことが心配、でも子どもは知的障害があり財産を管理する能力がない、といった場合に<家族信託>で信頼する人に財産を管理してもらいつつ、子どもの生活を守っています。
<ペット信託>ならお世話条件を盛り込める
この<家族信託>のしくみをペットに応用したのが<ペット信託>です。万一のとき猫を託す人を決めたら、その人を飼育者に指定して<信託契約書>を作ります。専用の口座に入れるお金の使い道は、猫のお世話費用。それ以外の用途に使ってはいけないという契約です。
猫の飼育を託す人に口座の管理を任せることもできますが、口座の管理だけ別の人に任せることもできます。
猫の飼育を任せる人が知り合って間もない人や老猫ホーム、愛護団体などの場合、口座は昔からの友人や知人、家族などに管理してもらい、そこから飼育費を支払ってもらうという方法がとれます。そして口座の管理者に定期的に猫の健康状態や飼育環境をチェックしてもらいます。これが<信託契約>のチェック機能で、<遺言書>ではできないこと。
親戚や友人のなかで「猫の飼育はできないけれどお金の管理や飼育環境のチェックならできる」という人はいないか、探してみましょう。
<信託契約書>にはほかにも優れた点があります。飼育についての細かい決まり事を盛り込むことができるのです。与えるフードや健康診断の頻度など、あなたが理想とするお世話条件を盛り込むことができます。最期、猫が亡くなったときの葬儀のしかたや埋葬方法も指定できます。自分と同じ墓に納骨してほしいという希望も可能です(霊園によって規定あり)。
もしかすると、認知症になると資産が凍結されることをこの本で初めて知った人がいるかもしれません。高齢の親をもつ方は、親御さんが元気なうちに<家族信託>を結んでおくと安心です。親御さんがペットを飼っている場合は、万一のときペットをどうするかもいっしょに考えてあげてください。
信託銀行が行う商事信託とは別モノ
信託というと「〇〇信託銀行」を思い浮かべる人もいると思います。でも、ここでいう<ペット信託>とはまったく性質が異なります。信託銀行が行うのは預かった財産を管理・運用する商事信託で営利目的。一方<ペット信託>を含む<家族信託>は財産を預けるのは信頼している家族や知人で非営利です。



