ヒナタカの雑食系映画論 第193回

『ワン・バトル・アフター・アナザー』を見る前に知りたい5つのこと。アカデミー賞最有力候補かつ「笑える」理由は

レオナルド・ディカプリオ主演、アカデミー賞最有力候補の呼び声もある『ワン・バトル・アフター・アナザー』を見る前に知りたい5つのことを解説しましょう。「実は笑える」「クセ強」だからこその面白さも知ってほしいのです。(C) 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

ワンバトル
『ワン・バトル・アフター・アナザー』 10月3日(金)全国公開 IMAX(R)/Dolby Cinema(R) 同時公開 配給:ワーナー・ブラザース映画 (C) 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED. IMAX(R) is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema(R) is a registered trademark of Dolby Laboratories 公式サイト:obaa-movie.jp #映画ワンバトル
10月3日より映画『ワン・バトル・アフター・アナザー』が公開されます。結論からいえば、本作はめちゃくちゃ面白い! アメリカの批評サービスIMDbでは8.4点、Rotten Tomatoesでは批評家支持率96%と2025年の映画の中でトップクラスの高評価を得ており、アカデミー賞の最有力候補の呼び声も納得の傑作でした。

表向きはシンプルなエンタメのようで、風刺は鋭く奥深さもある、予備知識がなくても楽しめる内容ですが、なかなかに変わったバランスの、クセが強い映画でもあります。心構えとして知っておいたほうがいい部分もあるのが事実です。

特に、上映時間が2時間42分と長尺であることにご注意を。 その後の予定の確認、事前のトイレはしっかり済ませておきましょう。そのほかにも知ってほしい項目をまとめていきます。

1:PG12指定も納得。やや過激で下品な言葉も飛び出すブラックコメディー

本作はPG12(12歳未満は保護者の助言や指導が必要)のレーティングがされており、その指定理由は「違法薬物の使用および、20歳未満の喫煙の描写がみられる」というもの。その時点でややインモラルな内容であることが示唆されています。

また、暴力的な表現がいくつかあるほか、(特にレオナルド・ディカプリオ演じるお父さんの)下品な言葉での罵倒も聞こえてきます。「あまりにひどい言葉や下ネタに笑ってしまう」タイプの「やや過激なブラックコメディー要素」がふんだんにあることを念頭においた上で見た方がいいでしょう。
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特に強烈なのは、ショーン・ペンが演じる、物語上では悪役である軍人の「ロックジョー」。詳細は伏せておきますが、ありていに言えば、とてつもない変態。いい意味でドン引きするシーンが冒頭から待ち受けています。もちろん、その生理的な嫌悪感まで呼び起こすキャラ造形も意図的なものですし、「悪役が変態すぎて笑うしかない」印象も含めて、楽しんでほしい映画なのです。

2:シンプルな逃走(闘争)劇に至るまでの時間をかけた「セッティング」が面白い

本作のあらすじは「元革命家のダメなお父さんが、命を狙われつつも娘を守ろうと奮闘する」というシンプルなもの。一方で、日本版のキャッチコピーである「これは、逃走劇のフリをした闘争劇」が示しているように、ただ逃げるだけではない意外な展開も用意されていますし、一筋縄な内容というわけでもありません。
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例えば、そのメインのサスペンスが始まるまでの「セッティング」を、およそ1時間もかけて描いています。それだけを聞くと冗長に感じる人もいるかもしれませんが、そこに至るまでのストーリーもしっかり面白く、だからこそ後の逃走(闘争)劇がよりスリリングに見られるというのが本作の美点でしょう。

前半の1時間では、例えば「お父さんとお母さんの馴れ初め」などが描かれます。後に夫婦になる2人は、革命を掲げる組織で信念を持ち、大義のために戦っていた……とも言えますが、その活動には犯罪行為もいとわない過激さがあり、特にお母さんの言動はかなりアグレッシブで、お父さんは彼女に「ちょっとついていけてない」ような立場。お母さんが「妊婦姿のままマシンガンを撃つ」様にも笑ってしまいます。
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過去の物語では、前述した軍人のロックジョーのヤバさもまた丹念に描かれていますし、その先にはとある悲劇が待ち受けています。さらには「元革命家だけど今ではすっかり落ちぶれたお父さん」「そのお父さんを少なからず疎ましく思っている高校生の娘」という「今」の関係も描かれ、さらには比較的まとも(?)な人物に思える空手道場の「センセイ」も登場します。
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それぞれのクセ強すぎなキャラクター描写をたっぷり済ませたからこそ、「元革命家VS変態軍人! お父さんはセンセイの助けも借りながら娘を救えるのか? さあ逃げつつ戦ってもらいましょう!」という、冗談のような流れに笑いつつもハラハラすることができます。やはりブラックコメディーよりのエンターテインメントなのです。
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実は差別をシニカルに描いた側面も。タイトルの元ネタは?
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