ヒナタカの雑食系映画論 第189回

バカリズム脚本の映画『ベートーヴェン捏造』を見る前に知りたい5つのこと。日本人でも違和感がないワケ

映画『ベートーヴェン捏造』が偉大な音楽家を卑近な存在として描くコメディーとしても、「狂気と愛」を描くサスペンスドラマとしても、すこぶる面白い作品でした! この「実話」を描くにあたってどのようなアプローチがされたのかを解説しましょう。(画像出典:(C) 2025 Amazon Content Services LLC or its Affiliates and Shochiku Co., Ltd.)

5:現代でも決して他人事ではない問題

劇中で語られるのは19世紀のウィーンで起こった出来事ですが、提示された問題は現代の日本でも決して他人事ではないと思います。

ここまで極端ではないにせよ、「推し活」が肯定的に語られる今、憧れを超えて神のように崇める誰かがいる人にとって、シンドラーの行動はより切実に「理解できてしまう」ものなのかもしれません。
ベートーヴェン
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さらに、現代はフェイクニュースの問題、AI生成の功罪などから、「何が真実で何が嘘なのか」を自己責任で判断しないといけない時代になっています。

それでいて、本作はそうした真面目な問題提起だけを訴えているわけではありません。シンドラーを、歴史や実在の人物を改ざんした罪深い存在として一方的に断罪するのではなく、その狂気や業と向き合いながら、最終的には「愛の物語」として昇華させている点も、本作の大きな魅力でしょう。
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そのことが伺える、関和亮監督の言葉をプレス資料から引用しておきましょう。

「黒田先生(冒頭の現代日本のパートで山田裕貴が演じる音楽教師)も実はベートーヴェンが好きなんでしょうね。そういう意味ではやっぱり愛がテーマなのかなと思います。みんなどこか裏を持った人間ドラマであることが、全体に漂うミステリー的な要素でもある。先生と生徒が二人だけの秘密を共有するように、観た人だけが知ることのできる世界みたいなものを味わってもらえればいいなと思います」

確かに、劇中のベートーヴェンとシンドラーたちの人物像、それぞれの関係性に「見た人だけが知ることのできる世界」が、間違いなくあります。その上で、見た人それぞれの「主観」により、物語の解釈が異なってくるというのも、本作の豊かさです。皮肉に満ちながらもやはり愛もある、ラストの言葉からも、そのことをかみ締めてほしいです。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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