5:現代でも決して他人事ではない問題
劇中で語られるのは19世紀のウィーンで起こった出来事ですが、提示された問題は現代の日本でも決して他人事ではないと思います。ここまで極端ではないにせよ、「推し活」が肯定的に語られる今、憧れを超えて神のように崇める誰かがいる人にとって、シンドラーの行動はより切実に「理解できてしまう」ものなのかもしれません。
それでいて、本作はそうした真面目な問題提起だけを訴えているわけではありません。シンドラーを、歴史や実在の人物を改ざんした罪深い存在として一方的に断罪するのではなく、その狂気や業と向き合いながら、最終的には「愛の物語」として昇華させている点も、本作の大きな魅力でしょう。
確かに、劇中のベートーヴェンとシンドラーたちの人物像、それぞれの関係性に「見た人だけが知ることのできる世界」が、間違いなくあります。その上で、見た人それぞれの「主観」により、物語の解釈が異なってくるというのも、本作の豊かさです。皮肉に満ちながらもやはり愛もある、ラストの言葉からも、そのことをかみ締めてほしいです。「黒田先生(冒頭の現代日本のパートで山田裕貴が演じる音楽教師)も実はベートーヴェンが好きなんでしょうね。そういう意味ではやっぱり愛がテーマなのかなと思います。みんなどこか裏を持った人間ドラマであることが、全体に漂うミステリー的な要素でもある。先生と生徒が二人だけの秘密を共有するように、観た人だけが知ることのできる世界みたいなものを味わってもらえればいいなと思います」
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。



