ヒナタカの雑食系映画論 第188回

『ヒックとドラゴン』の実写化の意義を感じた3要素。同時にどうしても気になった3つのこと

『ヒックとドラゴン』の実写化の意義を感じた3つのことと、どうしても気になった3つのことを解説しましょう。アニメ版が好きだからこそ、思うところもあるのです。(画像出典:(C)2025 UNIVERSAL PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.)

実写化の意義3:細かな調整と「実在感」

『ヒックとドラゴン』のアニメ版監督の1人であるディーン・デュボア自らが、今回の実写映画版でも監督を務めたことは特筆すべきでしょう。
ヒックとドラゴン
(C)2025 UNIVERSAL PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
デュボア監督は「今回は原作の完全性を保ち、ファンに敬意を表すために監督を務めたい」と意欲を語り、目標は常に「アニメ映画に取って代わるものではなく、別のバージョンを作ること」だと強調。さらに「オリジナルの最高の部分を維持しながら、優れた、さりげない、そして重要な改良を加えています」と述べています。

その言葉通り、オリジナル版を手掛けた監督が再びメガホンを取ったからこそ、「アニメ版からほぼ変わっていない」「しかし細かい描写が加わっている」実写映画になっているのです。
ヒックとドラゴン
(C)2025 UNIVERSAL PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
細かい追加要素が何かといえば、「リーダーとしての役回りが強調されたヒロインのアスティのキャラが深掘りされている」ことだったり、アニメ版では良い意味でややオーバーだったリアクションが、実写ならではの落ち着いたものになっていたり、スペクタクルシーンが増えている点。それらはアニメ版と見比べてみないと気付けないほど「さりげない」ことなのですが、それぞれが「実写化への最適解」と思える調整でした。

さらに、実写ならではの大きな付加価値となっているのは、「世界の実在感」です。アニメ版の舞台となる「バーク島」は言うまでもなく全てがCGで描かれたものだったのですが、今回の実写版は可能な限りセットおよびロケ撮影で再現していることが、メイキング映像でも分かるのです。

ヒックが作る人工の尾翼などの道具も、こだわり抜いた美術のおかげで「実際にある」と思えることに感動があります。
その世界の実在感は、もちろん「生身の俳優が演じている」からこそ担保されています。キャストは脇役に至るまで、アニメからそのまま飛び出てきたようなハマり役。特に主人公のヒックを演じたメイソン・テムズはホラー映画『ブラック・フォン』に続き、純粋さがある役どころにぴったり。ヒックの父親のストイックは、アニメ版のジェラルド・バトラーが同役を続投しているのも面白いところ(吹き替え版でも田中正彦が続投!)。

アニメ版ではブロンドに青い瞳をしていたアスティ役に、見た目のイメージが異なるニコ・パーカーが演じたことへの反発もあったとのことですが、実際に見てみれば、辛らつなセリフを放ちながら、芯が強く愛らしさも同居しているキャラクターを完璧に体現していて、見終わってみれば彼女以外の適役は考えられないほどでした。
アスティ
(C)2025 UNIVERSAL PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
さらには、CG技術が進化してこそ、生身の人間やセットの舞台と同居してもまったく違和感のない、時に恐ろしく、時にキュートなドラゴンたちの造形とリアリズムにも感動があります(アニメ版のヒックとトゥースのキャラクターデザインは日本人の野口孝雄が担当!)。そうした実在感があるからこそ、ドラゴンに乗った飛翔シーンのスピード感と臨場感、そしてクライマックスの大迫力の見せ場もより「本物」として享受できるはず。

さて、ここまで本作を称賛しましたが、ここから気になったことを記していきましょう。ネガティブな言及に聞こえるかもしれませんが、極めて作品の完成度が高いことを前提としていると、重ねて強調しておきます。
次ページ
そもそも実写化の意義とは?と考えてしまう理由
Lineで送る Facebookでシェア
はてなブックマークに追加

連載バックナンバー

Pick up

注目の連載

  • ヒナタカの雑食系映画論

    『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』が戦争アニメ映画の金字塔となった3つの理由。なぜ「PG12指定」なのか

  • 恵比寿始発「鉄道雑学ニュース」

    「まるでペットのようだったのに…」Suicaペンギン卒業で始まるロス。リュック、Tシャツ…愛用者の嘆き

  • 海外から眺めてみたら! 不思議大国ジャパン

    「空の絶対権威」には逆らえない!? JALの機長飲酒問題に思う、日本はなぜ「酔い」に甘いのか

  • 世界を知れば日本が見える

    【解説】参政党躍進に“ロシア系bot”疑惑、証拠なく“自民党の情報操作”との見方も