ヒナタカの雑食系映画論 第188回

『ヒックとドラゴン』の実写化の意義を感じた3要素。同時にどうしても気になった3つのこと

『ヒックとドラゴン』の実写化の意義を感じた3つのことと、どうしても気になった3つのことを解説しましょう。アニメ版が好きだからこそ、思うところもあるのです。(画像出典:(C)2025 UNIVERSAL PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.)

実写化の意義1:王道の「共生」の物語の名作

『ヒックとドラゴン』のあらすじは、「人間とドラゴンが戦いを繰り広げていた場所で、人間の少年が自分のせいで飛べなくなったドラゴンのために人工の尾翼を作るなどして、友情を育んでいく」というもの。

初めは「敵」でしかなかったはずのドラゴンとの交流はほほ笑ましくも楽しく、やがて大きな「変革」へとつながるという流れが、誰にでも分かりやすい形で提示されているのです。
ヒックとドラゴン
(C)2025 UNIVERSAL PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
こうした「異なる種族との交流」を主軸にした物語は『E.T.』や『リロ&スティッチ』と共通していますし、主人公が人間同士の対立もあるコミュニティーの中で人々の意識を変えていく流れは『風の谷のナウシカ』も連想します。

「共生」を主軸にした物語は、アニメ版が公開されていた2010年の時点でも多くの作品で描かれたことなので、それ自体に目新しさはなかったと言っていいでしょう。

しかしながら、『ヒックとドラゴン』はキャラクター造形・演出・脚本それぞれが練りに練られていることで、これ以上はないほどの完成度に仕上がっているのが、何よりも素晴らしいことだと思います。

主人公と周りのキャラクターの成長、何気ない伏線の回収、高揚感たっぷりの音楽、積み上げた物語が「ここぞ」という場面でカタルシスにつながる様など、エンターテインメントで実は最も難しいであろう「王道」をやり切った名作であり、それを再び大スクリーンで見られること。大人がその素晴らしさを振り返り、子どもがその面白さを知ることができる。そうした点こそが、実写化の大きな意義といえます。

実写化の意義2:2025年の今、問題提起がより鋭く感じられる理由

『ヒックとドラゴン』の物語はシンプルなようで、人間の社会や戦争に対しての問題提起は深く鋭いものにもなっています。
ヒックとドラゴン
(C)2025 UNIVERSAL PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
例えば、主人公のヒックは「強くある」ことを望まれる「マッチョイズム」に縛られています。父親のストイックが「あいつは戦いには向いていない」などと、息子を分かった気になっている一方で、ヒックは父の期待に応えようと空回りし、親子の会話もすれ違いがち。このような関係性は、普遍的な父子の問題として身につまされるところがあります。

さらに重要なのは、戦争における根源的な欺瞞(ぎまん)を問い直していること。予告編でも見られる「何百人も犠牲になった!」「こっちはもっと殺している」といったやりとりは、ロシアによるウクライナへの侵攻、またイスラエルによるガザ地区侵攻という戦争、いや一方的な虐殺が起きている2025年の今、その言葉の鋭さが一層際立っています。
ヒックとドラゴン
(C)2025 UNIVERSAL PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
さらに、共生の道を選んだ先に何があるか、ということに、安易さを感じさせない、シビアな目線を忘れていない、とある重い展開が用意されています。それと同時に、軽やかに希望を提示していることも美点でしょう。

もちろん本作はファンタジーなので、現実の問題と完全にイコールにはできないところもありますが、思考の一助となるはずです。
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細かな調整と「実在感」
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