2:恋愛要素も備えた「正しさ」とは何かという問いかけ
今回の主人公・リーは、とある不幸な出来事を経て、ニューヨークに移住してきた高校生。クラスメイトの少女・ミアとその父親と交流をする矢先、ミアの昔の恋人かつニューヨークの格闘トーナメントを制する絶対王者・コナーに恨みをかってしまい、リーは大切な人を守るために戦うことを決意します。
主人公の少年の成長物語に、思春期らしい初々しさのある「恋愛」が絡んでくるというのも『ベスト・キッド』らしさ。しかも、今回は想い人のミアの父親が経営するピザ屋が窮地に追いやられるという、切実な事情も戦う理由になっています。
リーが抱えた悩みは、直近で公開された移民を主人公とした『スーパーマン』とも共通していますし、その喪失感をはじめ、「周囲になじめない」「でも自分らしさは失いたくない」「大切な人を守りたい」気持ちには、きっと多くの人が共感できるでしょう。
さらに、『ベスト・キッド』シリーズは師弟の関係を通じて、「なぜ格闘技を学ぶのか?」という疑問、そして「正しさ」について問い続けているシリーズであると思います。 悪役となる少年は、悪い師匠から間違ったことを教わり、その結果としてさらに悪い行動をとってしまいます。一方で、主人公も「正しさ」から外れた行動をとっては反省することがあり(特に『ベスト・キッド3』ではダニエルが何度も過ちを犯してばかりで)、また師匠も弟子から学ぶ場面があります。こうした精神性は、教える人、学ぶ人全てに通じる、とても普遍的なものだと思えるのです。
また、昔は未熟で間違いも犯してきた主人公が年を重ねて「教える」立場になること、過去で積み重ねた経験があったからこその学びを「次の世代」にも継承する意志が見えること、作品自体が持つ精神性を「今の時代に蘇らせる意義」を感じることが、『トップガン マーヴェリック』と一致しています。長い時の流れを経た続編として、理想的な作りともいえるでしょう。
3:俳優たちの演技とアクションのアンサンブルは「魔法」
本作は前提として「格闘技の映画」であるので、もちろん見どころとなるのは、俳優が生身で演じるアクションです。主人公・リーを演じるのは、世界中から応募が殺到したオーディションを勝ち抜いた新星ベン・ウォンで、空手、カンフー、拳法、テコンドーなどの武術を習得した身のこなしは、劇中の「カンフーを学んだ上で空手の技術も身につける」挑戦への説得力が存分。どこにでもいる普通の少年のようで、実は信念を感じさせる役にもベストマッチでした。
そのほか、ヒロインのミア役のセイディ・スタンリーは皮肉屋で気の強いキャラにぴったり。また、元プロボクサーという設定のミアの父親役には、実際にボクシング経験のあるジョシュア・ジャクソンが起用されており、その演技に説得力があります。さらに、悪役コナーを演じたアラミス・ナイトも、単なる「純粋な悪」とは言い切れないようなミステリアスさやクールな雰囲気を漂わせており、それぞれの新キャラクターに自然と感情移入してしまうのは、俳優たちの演技力のたまものでしょう。
もちろん、ラルフ・マッチオとジャッキー・チェンが年を重ねて経験を積んだからこその、師匠としての説得力は言うに及ばず。ジャッキー・チェンは複雑な場面でのみ代役を立てたものの、アクションシーンの大半を自ら演じており、一方で今回はトレーニングを必要としなかった理由について「64年間毎日トレーニングをしてきました。ずっと戦って、戦って、戦ってきたのです」と語ってもいたのだそうです。

何より、優れた俳優たちの演技とアンサンブルが、映画特有の「魔法」をかけているような印象もまた『ベスト・キッド』シリーズらしさですし、その魅力が今回の『ベスト・キッド:レジェンズ』では極まっていたのです。その魔法は決して言語化できないので、実際に見ていただくしかありません。ぜひ映画館で見逃さないでください。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。



