ヒナタカの雑食系映画論 第184回

映画『バレリーナ』はスピンオフだからとナメてはならない! 『ジョン・ウィック』と並ぶ3つの魅力

映画『バレリーナ:The World of John Wick』がとてつもなく面白い作品でした! ナメてはならないスピンオフになった3つの理由を解説しましょう。(画像出典:(R), TM & (C) 2025 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.)

1:殺し屋の組織で育ち、復讐を目指す物語

本作の基本的なあらすじは、「父を殺された少女が暗殺者として育てられ復讐(ふくしゅう)を目指す」というシンプルなものです。

劇中のロシア系犯罪組織「ルスカ・ロマ」では、孤児を集めて暗殺者およびバレリーナを養成しており、そこで殺しのテクニックを磨いてきた主人公・イヴはやがて組織の意向に背き、「1000年の長きにわたって続く暗殺教団」の存在にたどり着きます。
バレリーナ
(R), TM & (C) 2025 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
まず、ある種のファンタジーともいえる「殺し屋の組織」こそが、『ジョン・ウィック』シリーズらしいところであり、中学2年生の心を持つ大人こそが好きなポイントでしょう。

例えば、シリーズでは「殺し屋が集うホテルには掟(おきて)があり、それを破るとほかの殺し屋から命を狙われる」という設定があります。今回はそれをさらに発展させ、組織に育てられた女性暗殺者が、理不尽で不条理な出来事に巻き込まれながらも、復讐のために、より巨大な組織にほぼ孤軍奮闘で立ち向かうという、不謹慎さとアンダーグラウンド感が魅力の設定が描かれています。

また、『ジョン・ウィック』の主人公であるジョンは殺し屋の生活から足を洗おうとしていた(しかし愛犬が殺されたことにより果てしない殺し合いから降りられなくなる)のに対して、『バレリーナ』のイヴは父の復讐のため、自ら進んで殺し屋の世界に入り込んでいます
バレリーナ
(R), TM & (C) 2025 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
その時点でスピンオフに求められる「これまでのシリーズとの差別化」がありますし、ジョンとイヴというキャラクターの「対比」もまた、シリーズを追っていた人こそが楽しめるでしょう。今回の劇中でも登場するジョンが、果たしてイヴにとっての敵となるのか、または味方になるのかにも、ぜひ注目してほしいです。

なお、今回の時系列は、3作目『ジョン・ウィック:パラベラム』と4作目『ジョン・ウィック:コンセクエンス』の間になるとのこと。シリーズファンはそちらも念頭に置くと、ジョンの心のうちを想像しやすく、より楽しめるかもしれません。

シリーズを見ていない人は、「愛犬を殺され、ロシアンマフィア(タラソフ・ファミリー)を壊滅。 家を爆破されイタリアンマフィアを壊滅させて裏社会の掟を破り逃走中」というジョンのとんでもなさすぎる来歴を知っていれば、十分に楽しめるでしょう。

2:危なっかしい戦いがエスカレート!「笑える」理由は?

さらに差別化している点としては、主人公が女性であることと、「だからこそ」のアクションが描かれています。主演のアナ・デ・アルマスは『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』で大注目されており、今回は小柄な体を生かした女性ならではのCQC(近接戦闘)アクションを披露しています。
それでいて、ベテラン殺し屋ジョン・ウィックが体術と銃撃を組み合わせた近接戦闘術「ガン・フー」を駆使していたのとは少し異なり(あるいはそのスタイルを受け継ぎつつも)、イヴは「殺し屋としての人生を歩み始めたばかり」だからこそ見せる「危なっかしい戦い」が、むしろスリリングで面白く描かれていました。

何しろ彼女は、「その場にあるもの」を駆使してギリギリの戦いを続けるのです。例えば、「手榴弾で敵に確実な致命傷を与えるには?」という問いに対し、「そんな豪快な方法があったの!?」と驚かされる場面もあります。そのほかでも「地の利を生かした戦い」が目白押しで、イヴと敵の双方が「手元の武器を失った」時の「お互いに必死で武器を見つけようとする」シチュエーションは「完全にコメディー」になっていました。
バレリーナ
(R), TM & (C) 2025 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
さらに笑ってしまうのは、終盤にイヴが見つける「ある武器」です(本編映像などで見られますが、ここでは秘密にしておきます)。その武器で「無双」を始める様は痛快ですし、“武器”VS“武器”、さらにはその武器と正反対の要素を持つ「あるもの」を持ち出したバトルが勃発する様に至っては大爆笑。「これは小学生が考えたんですか?」と思ってしまうほどでした(褒めています)。

そうした戦い方が「トンデモ」だからこそ笑ってしまうわけですが、一方で主人公が「殺し屋としてはまだまだ未熟だからこそ工夫して戦う」からこそ、ある程度の説得力があったりもします。 「肉体的な強さ」では到底敵わない相手に対して、知恵と工夫、そして時には創造(あるいは想像)力までも駆使し、不利な状況を武器に変えていく姿がとても面白いのです。
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