費目ごとの自腹発生率
全体の発生率を眺めて自腹がかなり身近な現象だと確認したところで、次は費目ごとの発生率をみていこう。授業
2022年度1年間で授業に関わる自腹が発生していたと回答した人は、回答者全体の58.8%だった(1034人中608人)。他の費目については後でみていくが、他の費目と比べて授業に関わる自腹は特に高い割合で発生している。小学校の教員のみでみると466人中304人(65.2%)、中学校の教員のみでみると466人中291人(62.4%)が1年間のうちに授業での自腹を経験している。小学校のほうが若干発生率が高いものの、あまり小・中学校の間に差はないといえる。
次に、職ごとにみていこう(「授業に関わる自腹発生率(1年間)」の図表)。
中学校では、管理職層の38.5%(52人中20人)、正規教員の68.2%(362人中247人)、非正規教員の46.2%(52人中24人)が経験している。
教員の仕事のなかでも特に重要な位置を占めているものだからか、授業に関わる自腹の発生率はどの職でも軒並み高い値を示している。
そのなかでも特に高いのが小学校の非正規教員だ。自腹についての具体例についての自由記述をみてみると、異動の際に持って行けないことや、手続きが煩雑であるなどの理由があるようだ。
ずっと同じ学校にとどまっていられないのは、公立学校のどの教職員も同じではあるが、非正規雇用の場合のほうがより流動性が高く、次年度以降のことを考えると、物品を自腹で負担して持って行けるようにしようという思考が働きやすいのかもしれない。
教員の自腹発生率が軒並み高いのに対し、事務職員の発生率はそれほど高くなく、12.7%(102人中13人)だった。相対的に低い割合にとどまったとはいえ、10人に1人以上は授業関連で自腹を切っているのは驚きだ。
彼らの自腹の内容としては、高機能製品を試しに買って使用させたいという回答や、予算切れのためにファイルを購入したという回答があった。
部活動
部活動に関わる自腹が2022年度1年間で発生したと回答した人は回答者全体の22.6%(1034人中234人)だった。部活動に関わる自腹の有無については、部活動を担当しているかどうかが分水嶺(ぶんすいれい)になっていそうだ。
ただし今回の調査では、部活動を担当しているかを尋ねた項目が質問紙に入れられなかったので直接的にそれを示すデータを提示することはできない。そこで、傍証(ぼうしょう)にはなってしまうが学校種別、職別の発生率から部活動に関わる自腹の実態を推測していこう。
部活動に関わる自腹をした人の多くが中学校教員だった(※2) 。部活動に関わる自腹があったと回答した小学校教員が466人中36人(7.7%)だったのに対し、中学校教員では466人中193人(41.4%)だった。
さらに具体的にみていこう(「部活動に関わる自腹発生率(1年間)」図表)。
中学校では、管理職層の25.0%(52人中13人)、正規教員の45.6%(362人中165人)、非正規教員の28.8%(52人中15人)が経験している。
このデータからは、小・中学校ともに部活動については非正規教員よりも正規教員のほうが自腹をしている人が多い傾向にあることが読み取れる。
おそらくこれは正規教員と非正規教員の間の部活動に対するコミットメントの差からきているのではないだろうか。そもそも部活動の顧問をしているかどうかや、正顧問なのか副顧問なのかによっても自腹が発生するかどうかが変わってくるだろう。
旅費
旅費に関わる自腹が2022年度1年間で発生したと回答した人は回答者全体の37.1%(1034人中384人)だった。今回尋ねた項目のなかでは、授業に次いで発生率が高いのがこの旅費に関わる自腹である。旅費についても職別に詳しくみておこう(「旅費に関わる自腹発生率(1年間)」図表)。
中学校では、管理職層の44.2%(52人中23人)、正規教員の48.3%(362人中175人)、非正規教員の23.1%(52人中12人)が経験している。
事務職員だと18.6%(102人中19人)の人が経験したと回答していた。
旅費では、管理職層や、正規教員が自腹をする割合が非常に高くなっており、小・中学校ともに半数程度の人が一年間で旅費に関わる自腹を経験している。それと比較すると多少割合は下がるものの、非正規教員や事務職員の場合も2割前後と少なくない割合で自腹が発生している。
旅費に関わる自腹の内容としては、家庭訪問や教育委員会や他校への訪問などの出張が主要なケースだ。
管理職層や正規教員の自腹発生率が他と比べて高いのは、家庭訪問などの外出をする業務が多く組み込まれている場合に自腹が発生しやすくなっているということだろう。
また、相対的に発生率が低い小・中学校非正規教員(小学校:17.3%・中学校:23.1%)や事務職員(18.6%)でも、ある程度の人が自腹を切っている。
今回の調査で目立った家庭訪問などの他にも、さまざまな旅費に関わる自腹をしなければならない理由が遍在しているのだろう。 なお、書籍『教師の自腹』では、今回紹介した授業・部活動・旅費の他にも、備品破損などに伴う「弁償・代償」のための自腹や、教職員が実際に支払った金額の分析なども詳しく調査されている。より詳しく知りたい方は、ぜひご覧いただきたい。 ※1:この値を基に、「日本の教職員の4人に3人が自腹の経験がある」ということはできない。その理由は、今回の調査では質問紙を配付する人数を職と性別に応じて割り振っているからだ。とはいえ、職別・性別の発生率を確認した上で、それほど日本全体の値とかけ離れてはいないと筆者は考えている。
※2:小学校については一部の地域・学校でのみ部活動が行われており、ほとんどの学校で部活動が実施されている中学校とは状況が異なっている。ただし、小学校で部活動を行うことが一般的ではない地域・学校の回答者がクラブ活動として読み替えて回答している可能性は否定できない。
【この書籍の執筆者】※肩書は本書執筆当時
福嶋尚子 プロフィール
千葉工業大学工学部教育センター准教授/「隠れ教育費」研究室チーフアナリスト。新潟大学教育人間科学部(当時)で教育行政学、教育法学、教育政策学を学び、修士課程を経て、2011年東京大学大学院教育学研究科の博士課程に進学。2015年度より千葉工業大学にて教職課程に助教として勤務し、2021年より准教授(現職)、教育行政学を担当。
栁澤靖明 プロフィール
埼玉県川口市立青木中学校事務主幹/「隠れ教育費」研究室チーフディレクター。県内の小・中学校に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・就学支援制度。
古殿真大 プロフィール
名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士後期課程院生/日本学術振興会特別研究員(DC2)。筑波大学人間学群教育学類で教育社会学を学び、名古屋大学大学院教育発達科学研究科の博士課程に進学。専門は教育社会学、障害児教育。教育に医療の知識がもち込まれることに関心を寄せ、とりわけ情緒障害に着目し、歴史的な観点から研究をしている。



