教員悲鳴、プールは限界……学校水泳、持続可能な「令和モデル」は?

全国の公立小中学校で水泳授業を廃止する動きが広がっています。プールの老朽化や教員の負担軽減などが理由です。夏休みに入り、今年も水の事故のニュースが絶えません。泳ぎを覚え、自らの身を守る教育はどうあるべきでしょうか。(画像出典:Adobe Stock)

プールの老朽化、教員の負担軽減、熱中症リスク……

問題は半世紀近くを経た施設の老朽化です。建て替えや改修には億単位の費用がかかるため、水泳授業にも支障が出てきているのです。 
老朽化した学校のプール
各地の小中学校でプールの老朽化が進む(画像出典:photo AC)
多くの学校では、プールの管理や水質検査を教員任せにしてきました。2023年には川崎市の小学校で教員が操作を誤って6日間も水を出しっぱなしにしてしまい、市が水道料金190万円余りの半額となる95万円について教員と校長に弁償を求めました。このような例が各地で相次いでいることから、文部科学省はプール管理の在り方や教員の負担軽減を検討するよう、全国の学校に通知しました。
 
教員の人材不足が社会問題となっている中、負担軽減は急務です。その対象となる1つとして、水泳の授業も挙げられるようになってきたのです。
 
気候変動に伴い、猛暑による熱中症のリスクも年々、高まっています。日本スポーツ協会の「熱中症予防ガイドブック」では、「水中で安静状態の人の体温が上がりも下がりもしない水温を『中性水温』といい、33~34度です。水中で運動する場合には、これ以下の水温であっても、その運動強度に応じて体温が上昇します。夏季の屋外プールや温水プールでの水泳時には体温が上昇し、かなりの汗をかき、脱水を生じています」と警鐘を鳴らしています。
 
他のスポーツと同様、水泳も「暑さ指数(WBGT)」が31以上になると、原則中止するというのが教育現場の基準です。水温プラス気温が65度以上のときも中止の判断がなされることもあります。

かつては夏の暑さをしのぐために水に入るという認識がありましたが、地球温暖化が進む今では子どもたちの安全を守る意味でも、水泳授業を避ける方向になりつつあるようです。

授業環境の改善を求める日本水泳連盟

民間のスイミングスクールに通う子どもは少なくありませんが、経済的な事情から通わせられない家庭もあります。そのうえ、習い事も多様化しています。水泳授業がなくなれば、泳ぎ方を知らないまま育つ子どもも増えるでしょう。
 
危機感を表明したのは日本水泳連盟です。1988年ソウル五輪の背泳ぎ金メダリストでもある鈴木大地会長が出した文書では「陸上運動とは異なり水の特性を体感することから始まる水泳は、体験なくして習得することは不可能である。一方で施設経費や教員の労務負担増などの水泳実技授業実施にあたっての諸課題もあり、その解決策も含め今後提言をしていきたい」と述べられています。
 
1. 拠点校のプール整備(屋内温水化)と複数校での年間共同利用
2. 公営プールの活用
3. 民間プールの活用
4. 授業拠点となる公共室内プール新設
5. 民間水泳指導員の派遣活用
6. 民間水泳教室への指導補助委託

 
鈴木会長はこのような項目を挙げて授業環境の改善を求めています。今後は屋内プールを持つ公営施設や民間スイミングスクールとの連携が欠かせないでしょう。
川遊びする子どもたち
川遊びや海水浴は夏休みの楽しみ。水の事故を防ぐためにも水泳の指導は欠かせない(画像出典:Adobe Stock)
今夏も各地で水難事故が相次いでいます。泳ぎ方を身につけ、命を守る教育を簡単に廃止していいはずがありません。昭和の時代にできた水泳授業のシステムが限界に来ているだけに、令和の時代に沿った持続性のある改革を進めてほしいものです。
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この記事の執筆者:滝口隆司
社会的、文化的視点からスポーツを捉えるスポーツジャーナリスト。毎日新聞では運動部の記者として4度の五輪取材を経験。論説委員としてスポーツ関連の社説執筆を担当し、2025年に独立。著書に『情報爆発時代のスポーツメディア―報道の歴史から解く未来像』『スポーツ報道論 新聞記者が問うメディアの視点』(ともに創文企画)。立教大学では兼任講師として「スポーツとメディア」の講義を担当している。
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