プールの老朽化、教員の負担軽減、熱中症リスク……
問題は半世紀近くを経た施設の老朽化です。建て替えや改修には億単位の費用がかかるため、水泳授業にも支障が出てきているのです。
教員の人材不足が社会問題となっている中、負担軽減は急務です。その対象となる1つとして、水泳の授業も挙げられるようになってきたのです。
気候変動に伴い、猛暑による熱中症のリスクも年々、高まっています。日本スポーツ協会の「熱中症予防ガイドブック」では、「水中で安静状態の人の体温が上がりも下がりもしない水温を『中性水温』といい、33~34度です。水中で運動する場合には、これ以下の水温であっても、その運動強度に応じて体温が上昇します。夏季の屋外プールや温水プールでの水泳時には体温が上昇し、かなりの汗をかき、脱水を生じています」と警鐘を鳴らしています。
他のスポーツと同様、水泳も「暑さ指数(WBGT)」が31以上になると、原則中止するというのが教育現場の基準です。水温プラス気温が65度以上のときも中止の判断がなされることもあります。
かつては夏の暑さをしのぐために水に入るという認識がありましたが、地球温暖化が進む今では子どもたちの安全を守る意味でも、水泳授業を避ける方向になりつつあるようです。
授業環境の改善を求める日本水泳連盟
民間のスイミングスクールに通う子どもは少なくありませんが、経済的な事情から通わせられない家庭もあります。そのうえ、習い事も多様化しています。水泳授業がなくなれば、泳ぎ方を知らないまま育つ子どもも増えるでしょう。危機感を表明したのは日本水泳連盟です。1988年ソウル五輪の背泳ぎ金メダリストでもある鈴木大地会長が出した文書では「陸上運動とは異なり水の特性を体感することから始まる水泳は、体験なくして習得することは不可能である。一方で施設経費や教員の労務負担増などの水泳実技授業実施にあたっての諸課題もあり、その解決策も含め今後提言をしていきたい」と述べられています。
1. 拠点校のプール整備(屋内温水化)と複数校での年間共同利用
2. 公営プールの活用
3. 民間プールの活用
4. 授業拠点となる公共室内プール新設
5. 民間水泳指導員の派遣活用
6. 民間水泳教室への指導補助委託
鈴木会長はこのような項目を挙げて授業環境の改善を求めています。今後は屋内プールを持つ公営施設や民間スイミングスクールとの連携が欠かせないでしょう。

社会的、文化的視点からスポーツを捉えるスポーツジャーナリスト。毎日新聞では運動部の記者として4度の五輪取材を経験。論説委員としてスポーツ関連の社説執筆を担当し、2025年に独立。著書に『情報爆発時代のスポーツメディア―報道の歴史から解く未来像』『スポーツ報道論 新聞記者が問うメディアの視点』(ともに創文企画)。立教大学では兼任講師として「スポーツとメディア」の講義を担当している。