3:『虎に翼』との共通点は
吉田恵里香が脚本を手掛けた『虎に翼』は、日本史上初の女性弁護士となった三淵嘉子をモデルとして作り上げたオリジナル作品であり、はっきりと「女性たちの連帯」を描いた作品でした。女性法律家を育てる学校の先駆けである「女子部」の面々は、『前橋ウィッチーズ』のキャラクターと重なる部分も多く、彼女たちの物語の進む方向もかなりの部分で共通しています。
『虎に翼』で土居志央梨が演じる「山田よね」は、周りにきつい当たり方をする人物ですが、それは女性の社会進出に対する思いの強さの裏返しでもありました。山田よねの立ち位置は、『前橋ウィッチーズ』では口の悪い女の子「アズ」にも近く、そのアズも「魔女になる」という目標を誰よりも重視していました。両者は仲間から「だからって暴言を吐いていい理由にはならないけどね」と、たしなめられる点でも一致しています。
『虎に翼』の主人公である伊藤沙莉演じる「猪爪寅子」は、「はて?」という口ぐせで疑問を投げかけ、何も言わずに済まそうとする周囲の「スンッ」という態度もいぶかしく思う人物です。彼女の「正しいと思うことははっきりと言う」様は、『前橋ウィッチーズ』では「ユイナ」に近いところもあり、その物怖じしない行動力と言葉が周りを良い方向へと変えていくこともありました。
そして、『虎に翼』は過去の物語でありつつも、今の女性の社会進出につながる価値観の変容や、「男らしさ」「女らしさ」に囚われることからの脱却を描いていました。それにリンクするように、『前橋ウィッチーズ』では、前述したルッキズム、承認欲求、ヤングケアラー、推し活の中に潜んでいる性犯罪という、まさに「今」の若い女性たちが遭遇する問題について、真正面から向き合っているのです。
しかも両者は、「誰かを理解するだけでいい、何も変わらないでいいとも言っていない」「変わるための努力は、いつか本当に何かを変えるかもしれない」という精神性も一致しています。吉田恵里香という作家の誠実さは、『虎に翼』と『前橋ウィッチーズ』の両方を通して見ることで、よりストレートに伝わると思うのです。
気になるところもあるけど、届いてほしい
正直に言って、この『前橋ウィッチーズ』には気になるところもあります。例えば、第6話のラストの暴言は、後から事情を知っても「さすがにあそこまで言わせるのはやりすぎでは?」と感じてしまいました。作品としての“ショッキング”さが優先されていることによって、違和感を覚えたのです。また、第5話の「デジタルタトゥー」という大きな問題については、現実にはない魔法が絡んだ、やや甘い方向性でまとめられた印象も抱いてしまいました。
舞台となる群馬県前橋市についても、メインで登場するのは「シャッター街」です。それでは、前橋本来の魅力が伝わりきらず、「東京に近い都市」以外では、物語上でもあまり効果的になっていないのでは? と思う部分もありました。
それでも全体的には、やはり現代にふさわしく、多くの問題に誠実に向き合った作品であることは確かです。第10話ではとてつもない衝撃と感動が待ち受けていましたし、最終話となる12話を見れば、また印象も変わるでしょう。
何度も言うように、アニメファンの大人だけが見るのは、「1話切り」をしてしまうのは、あまりにもったいない作品です。『虎に翼』が好きだった人にも、もっと多くの人に届くことを願っています。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。



