2050年の社会で求められる能力とは? 子どもが将来活躍するために親にできること

2050年の社会では、今とは全く異なる能力が求められます。経産省の調査でも、その変化は明らかです。では、未来を生きる子どもたちに必要な力は、どうすれば育めるのでしょうか? 小宮山利恵子氏の著書から、これからの教育を考えます。(画像出典:PIXTA)

2050年に求められる人材像は、2015年とは全く異なることが分かっている
2050年に求められる人材像とは?(画像出典:PIXTA)
「指示待ちの若手が多くて困る」。企業の管理職からよく聞かれるこの悩み。実は、その根本原因は私たちが思っている以上に深刻で、日本の教育システム全体に関わる問題なのかもしれません。

2050年に求められる人材像は、2015年とはまったく異なることが経済産業省の調査で明らかになっています。AI時代を迎える中で、従来の「正解を効率的に導き出す」教育だけでは、もはや通用しない時代が到来しているのです。

では、未来を生きる子どもたちに必要な力は、どうすれば育めるのでしょうか。『好奇心でゼロからイチを生み出す 「なぜ? どうして?」の伸ばし方』(小宮山利恵子 著)から一部抜粋し、ご紹介します。

「両利きの学び」で未来に備える

企業のマネージャークラスの人と会うと、「指示待ちの若手が多く、育て方が難しい」という声をよく聞きます。

それも元をたどれば、正解がある問題を効率的に解くことだけを教えて、失敗や間違いを認めてこなかった学校教育の弊害が大きいと思います。

成長期の子どもが、失敗や間違いはダメなことだと刷り込まれたら、余計なことはせず黙って指示に従い受け身になるのは当たり前ですよね。

「子育てのゴールは自立」という話もよく聞きますが、受け身のまま経済的に自立できても、指示してくれる人がいなくなったら途方に暮れてしまうでしょう。

今の時代は、他人の指示やルールに縛られず、自分の頭で考えて何をすべきか判断、行動して成果を出せる「自律型」の人材が求められています。しかし、みんなと同じ集団教育で自律心は育ちません。

失敗や無駄を少なくするために、一定分野の知を深掘りしていく学校教育は、イノベーション研究の最重要理論として知られる「両利きの経営」でいうところの「知の深化」に当てはまります。

これを「両利きの学び」に置き換えると、「知の深化」は一定の知識を磨き上げて効率的に正解を導き出す学びです。(図参照)
「知の深化」と「知の探索」の両方が必要
図:「知の深化」と「知の探索」の両方が必要(出典:『好奇心でゼロからイチを生み出す 「なぜ? どうして?」の伸ばし方』
「知の深化」ももちろん大事ですが、先行き不透明な時代を生き抜く力を育てるためには、失敗や無駄が多くても数値化できない「非認知能力」を高める「知の探索」が重要になります。

非認知能力については、さまざまな解釈がありますが、文科省の説明を引用すると次の3つの要素を意味します。

・自分の目標を目指して粘り強く取り組む
・そのためにやり方を調整し工夫する
・友達と同じ目標に向けて協力し合う


3つとも、意欲・意志・情動・社会性に関わる“心の能力”のことです。

これまでの日本の教育は「知の深化」に偏っていたため「知の探索」も取り入れて「両利きの学び」の両輪を回していくことが、AI時代を生き抜く力となり、それがやがて日本の経済を支える力となっていくのです。

2050年に求められる人材像とは?

日本には「出る杭は打たれる」文化が根強くあります。これも、失敗したくない、余計なことをして叱られたくない、とにかくルールを守って上の人の言うことを聞いていればいい、という従来の学校教育の呪縛がベースにあるのでしょう。

高度経済成長期から続いた大量生産の時代には、みんなと同じように決まったマニュアルに従い、早く正確に仕事を進められる人材に価値がありました。そのため学校も、社会のニーズに合うように子どもたちを育成していました。

しかし、受け身の人間が評価された時代が日本は長すぎました。経済産業省(以下経産省)が公開している「未来人材ビジョン」(2022年5月)によると、2015年と2050年の人材に求められる能力はまったく異なることがわかります。

2015年に重視されていた能力は、「注意深さ・ミスがないこと」「責任感・まじめさ」「信頼感・誠実さ」「基本機能(読み、書き、計算など)」「スピード」です。

ところが2050年に求められる能力は、「問題発見力」「的確な予測」「革新性(新たなモノ・サービス、方法などを作り出す能力)」「的確な決定」「情報収集」など、まるで別世界のように変わることが予測されています。

現場の先生たちも、子どもたちにとって将来必要な力と、学校教育のギャップを感じています。リクルート進学総研が実施した「高校教育改革に関する調査2024」によると、高校教員が考える「特に必要な社会人基礎力」は、物事に進んで取り組む「主体性」と、現状を分析して目的や課題を明らかにする「課題発見力」でした。

しかし実際、生徒が身につけている能力は、社会のルールや人との約束を守る「規律性」と、相手の意見を丁寧に聞く「傾聴力」という結果になっています。時代が変化したからといって、急に主体性や課題発見力を求められても、学校が変わらなければ子どもたちが変われるはずがありません。

「好き」を極めたスペシャリストが活躍する

時代が急速に変化するなかで、就職活動の在り方も変わりつつあります。

以前は、大学に入った途端に解放感に浸って遊びやバイトに明け暮れる学生が多かったのですが、最近はインターンや留学などで早くから視野を広げ、自分の興味関心に沿った経験を積み重ねる学生が増えてきています。これはとても喜ばしい変化です。

日本の雇用環境も大きく変化しています。大企業の採用方法は、従来の新卒一括採用に加え、中途採用、通年採用、職種別採用、ジョブ型採用などが増加し、多様化・柔軟化が進んでいます。転職・副業する人が増え、人材の流動性も高まっているため、企業側も多様な採用形態を模索しているのです。

このような変化の中で、特定の分野で深い専門知識や経験を持つスペシャリストの価値が高まっています。大手企業の中途採用でも、自社が必要とする専門的なスキルや能力を持った人材を求める傾向が強まっています。

経産省の未来人材会議が2022年に公表した「未来人材ビジョン」では、未来に向けた2つの方向性として「旧来の日本型雇用システムからの転換」と「好きなことに夢中になれる教育への転換」を掲げています。つまり、子どもたちが自分の興味関心を深め、専門性を伸ばすことの重要性を示しているのです。

子どもが好きなことや得意なことを見つけて極めるための環境を整えるのは、私たち親の大切な役割です。学校教育だけでは難しい部分を、家庭での関わりで補完すれば、子どもたちは自分らしさを大切にすることができるでしょう。

子どもの「好き」を思う存分伸ばせる環境を与えることが、未来への最高の贈り物になるのです。
 
好奇心でゼロからイチを生み出す 「なぜ? どうして?」の伸ばし方
好奇心でゼロからイチを生み出す 「なぜ? どうして?」の伸ばし方

小宮山利恵子 プロフィール
株式会社リクルート スタディサプリ教育AI研究所所長、東京学芸大学大学院教育学研究科教授。衆議院、ベネッセ等を経て2015年よりリクルートにて現職。ICT教育領域の他、五感を使った学びやアントレプレナーシップ(起業家精神)教育について幅広く活動。著書に『教育Alが変える21世紀の学び」(共著 北大路書房)、『新時代の学び戦略』(共著 産経新聞出版)、『レアカで生きる「競争のない世界」 を楽しむための学びの習慣』(KADOKAWA) など。最新刊は『好奇心でゼロからイチを生み出す 「なぜ? どうして?」の伸ばし方』(ディスカヴァー)。
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