日本の子どもたちには何が足りない? OECDが明らかにした、高学力なのに国際競争力が低下し続ける理由

学力は世界トップクラスなのに国際競争力が下がる日本。世界で活躍する子に育てるために、「子どもに必要な教育を学校任せにするのではなく、家庭でも実践していく」という発想の転換が今、求められています。(画像出典:PIXTA)

日本の子どもたちが抱える課題とOECDが指摘した重要な弱点
世界トップクラスの学力を誇る日本。国際競争力はなぜ低下?(画像出典:PIXTA)
世界トップクラスの学力を誇る日本の子どもたち。しかし、日本の国際競争力は年々低下の一途をたどっています。一体なぜでしょうか。

実は、OECD(経済協力開発機構)の分析により、日本の子どもたちの「弱点」が明らかになっています。さらに、日本の若者たちの将来への意識を他国と比較した最新調査では、驚くべき結果が浮かび上がりました。

勉強はできるのに活躍できない。夢や目標を持てずに安定志向に走る。この現象の背景には、日本の教育システムが抱える根深い課題があります。AIが台頭する時代に、本当に子どもたちが身につけるべき力とは何なのでしょうか。

『好奇心でゼロからイチを生み出す 「なぜ? どうして?」の伸ばし方』(小宮山利恵子 著)から一部抜粋し、ご紹介します。

OECDが分析してわかった学力の高い日本人の「弱点」

日本人は、ビジネスの土台となる学力が低いわけではありません。その証拠に、日本の義務教育は世界に誇る高いレベルを維持しています。

OECDが4年に1度実施している「PISA(国際学習到達度調査)」の2022年最新版では、日本は183校から約6000人が参加し、加盟国中、数学的リテラシーと科学リテラシーが1位、読解力が2位と世界トップクラスでした。

ではなぜ、日本はこれだけ高い学力の生徒を育成し続けてきたのに、国際競争力が低くなり続けているのでしょうか?

学力の高い日本人の弱点をOECDが分析してわかったことがあります。たとえば数学に関しては、次の3つの問題点が挙げられています。

1. 日本の生徒はOECD加盟国の平均と比べて、実生活における課題に対し数学を使って解決する力が低い。

2. 数学を実生活における事象と関連付けて学んだ経験も少ない。

3. 日本の数学の授業は、数学的思考力育成のために日常生活とからめた指導を行っている傾向も低い。


OECDの調査によると、日本の生徒は数学の基礎学力では高い水準を示しています。ところが、OECD加盟国の平均と比較すると、実生活における課題に対して、数学的思考力を応用して解決する力が相対的に低いことが明らかになっています。

つまり、知識はあっても、それを実践的に活用する能力に課題があるのです。数学的思考力というのは、数量の意味や関係を理解し、論理的に考える力と問題解決する力のことを意味します。

この結果から、日本の子どもは勉強ができても、その学力を活用して問題解決する能力が低い、ということがわかります。

「将来の夢がある」が6カ国中最下位の日本の若者

いきなり暗い話でガッカリさせてしまったかもしれません。私も、子育てをがんばっているみなさんにネガティブな話ばかりしたくはないのです。

しかし、教員の人手不足や業務過多の問題が深刻な学校教育には限界があります。子どもに必要な教育を学校任せにするのではなく、家庭でも実践していくこと。この発想の転換が必要なのです。

そのために知っておいていただきたい情報をぜひ皆さんにお伝えしたいので、もう少しだけお付き合いください。

日本の若者の自己肯定感が低いことは皆さんもご存知かもしれませんが、国際比較調査でもその事実が明らかになっています。

日本財団が2024年に実施した「18歳意識調査」は、この問題を浮き彫りにしました。

この調査は、日本、アメリカ、イギリス、中国、韓国、インドの17〜19歳男女各1000人を対象に実施され、結果として次の項目すべてにおいて日本は6カ国中最下位でした。

・将来の夢がある
・他人から必要とされている
・夢中になれることがある
・人生に目標や方向性がある

日本の若者は他の国の同年代の若者に比べて夢や目標がない……これはとても残念な状況と言わざるを得ません。

また、同じ調査内の「国や社会に対する意識」についてのアンケートでも、「自国は国際社会でリーダーシップを発揮できる」「自分の行動で国や社会を変えられると思う」「自分には人に誇れる個性がある」のすべての項目で、日本は最下位です。日本の若者の自己肯定感や自己効力感がいかに低いか、他国の若者と比較するとよくわかります。

将来なりたい職業は「公務員」、その理由は……

このように、夢や希望を持てず、自己肯定感が低い子どもたちは、将来に対しても消極的で、無難な道を選ぼうとする傾向が強いようです。

「LINEリサーチ」が全国の中学生、高校生の男女を対象に実施した、将来なりたい職業の調査によると、男子中学生・男子高校生・女子高校生の1位は国家公務員・地方公務員、女子中学生の1位は教師・教員・大学教授です。

一方、男子中学生に限った調査では、2位がスポーツ選手、4位がゲーム業界の仕事で、子どもらしい夢もランクインしており、6位の社長・経営者・起業家も3.5%います。女子中学生も、2位が歌手・ミュージシャン、4位にイラストレーターがランクインしています。しかし、男女とも高校生になると、夢をあきらめてしまうのか手堅い職業が増えるのです。

公務員になりたい理由も、男女ともに「収入が安定しているから」。日本の子どもたちは成長するにつれて、新しいことに挑戦するより失敗の少ない手堅い職業に就きたい傾向が強まっていることは明らかです。

もちろん、公務員の仕事も重要です。けれども、具体的にどんな仕事をするかもわからないのに、「本当に公務員になりたいの?」と聞かれて迷わず「イエス」と答える子は少ないのではないでしょうか。

公務員が安心できる仕事とも限りません。AIに取って代わられる仕事の多くはホワイトカラーですから、公務員の仕事も一部はAIによる代替が進むでしょう。

アメリカの投資銀行ゴールドマン・サックスは2023年春、AIによって3億人分のフルタイムの仕事が取って代わられる可能性があるとの報告書を発表しました。これは、アメリカとヨーロッパの仕事の4分の1に当たる数です。

加えて、現代の労働者の60%は1940年には存在しなかった職業に就いているという調査も報告しています。

つまり、安定、安心できる職業に就いたところで、5年後、10年後も安定、安心できるとは限らないということです。
 
好奇心でゼロからイチを生み出す 「なぜ? どうして?」の伸ばし方
好奇心でゼロからイチを生み出す 「なぜ? どうして?」の伸ばし方

小宮山利恵子 プロフィール
株式会社リクルート スタディサプリ教育AI研究所所長、東京学芸大学大学院教育学研究科教授。衆議院、ベネッセ等を経て2015年よりリクルートにて現職。ICT教育領域の他、五感を使った学びやアントレプレナーシップ(起業家精神)教育について幅広く活動。著書に『教育Alが変える21世紀の学び」(共著 北大路書房)、『新時代の学び戦略』(共著 産経新聞出版)、『レアカで生きる「競争のない世界」 を楽しむための学びの習慣』(KADOKAWA) など。最新刊は『好奇心でゼロからイチを生み出す 「なぜ? どうして?」の伸ばし方』(ディスカヴァー)。
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