4:草なぎ剛から伝わる「信頼」「葛藤」「決断」
キャラクター描写は良くも悪くも極端だと前述しましたが、一方でそうした過剰さがほぼなく、俳優としての資質が役柄にとてもにマッチしていたのは、実質的な主人公である車掌を演じた草なぎ剛です。近作では『碁盤斬り』にも近い、冷静で理知的、だけど心に秘めた強い思い、あるいは「危うさ」もある人物に、これ以上の適役はないと思えました。【関連記事】草なぎ剛主演映画『碁盤斬り』が最高傑作になった7つの理由。『孤狼の血』白石和彌監督との好相性
彼には、新幹線に爆弾が仕掛けられたことを知った乗客がパニックにならないようになだめる重要な役割がありますし、行きすぎた行動に出る細田佳央太演じる乗務員をたしめたり、のん演じる運転手にややフランクに接したり、勇気づけたりもします。

一方で、この爆弾が仕掛けられ乗客も自分も死ぬかもしれないという極限状態において、その胸中は決して穏やかでないことも、その草なぎ剛の表情からはうかがい知れます。特に、終盤のとある事態になった時の葛藤、そしてとある「決断」に向かおうとする様は、それまでの「理性的で誠実」な彼の姿を見ていたからこそ、とてつもなく胸が締め付けられるものだったのです。

5:コナン映画の1作目に『新幹線大爆破』の要素も
※以下、『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』の一部展開に触れています。最後となりますが、本作をコナン映画が好きな人にもおすすめできる理由を記しましょう。
何しろ、コナン映画シリーズは既存の実写のアクション映画の影響が強く、特に1997年公開の第1作目『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』には、1975年版『新幹線大爆破』を参照したと思われる、「列車の速度を落とすと爆弾が爆発する」設定の元でのサスペンスが展開するからです。
ほかにも『時計じかけの摩天楼』での、爆弾魔に電話で指名され出題される謎に踊らされる様は1995年の『ダイ・ハード3』をほうふつとさせますし、時限爆弾の解除で「赤の線を切るか青の線を切るか」の決断を迫られるのは1974年の映画『ジャガー・ノート』にもあったサスペンスです。
『時計じかけの摩天楼』に限らず、限定的な場所で爆弾が爆発するかしないかのハラハラや、派手なアクションの見せ場はコナン映画シリーズの大きな魅力です。それが最も分かりやすく表れており、さらにキャラクターの尊い関係性や、「犯人を当てる」楽しみもあるという、コナン映画ファンが好きな要素が詰まっているのが、今回のNetflix版『新幹線大爆破』なのですから。

※草なぎ剛のなぎは弓へんに前の旧字体、その下に刀が正式表記
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。