二極化する意見。フランス人が移民に思うこと

移民から帰化し、フランス国籍を取得した人々の中には、問題を起こす層を「迷惑だ」と厳しく非難する人もいます。「移民の移民に対する風当たりが強い」という現実は、実際にこちらで暮らして初めて知ったことでした。自分は真面目に生活しているのに、彼らのせいで自分にも偏見の目を向けられる——こうした別の不満は、移民の多いフランスならではの感情かもしれません。
一方では、フランスの各地でハラルフード(イスラム教の教えに則った食品)の肉屋が増加している現実もあります。イスラム教徒の多いフランスでは、ハラルフードはごく当たり前の存在。ですが最近では、逆に「自分はフランスの伝統的な肉屋でしか買わない。彼らを守りたい」という地元フランス人の声も、ちらほら聞くようになりました。
前述したのは一例ではありますが、今のフランスでは、移民に対する見解があちこちで鋭く二極化している印象を受けます。それは単に「良いか悪いか」を問う次元ではなく、より複雑で、個々の思想の深いところに根ざしたもの。フランス社会を静かに分断しかねない危うさすら感じます。
フランス社会では、「腫れ物に触る」ような慎重さが求められている
というのもフランスでは、移民問題はときに差別を助長するとして、非常にセンシティブなテーマとなっています。例えば、先に挙げたように、「ハラルではなくフランスの伝統的な肉屋でしか買わない」と公言すれば、それだけで差別的と受け取られ、批判の対象となってしまう可能性があるのです。日本ではあまり考えられませんが、移民がマジョリティ化しているフランスでは、ちょっとした「悪気ない」発言が差別になりかねません。差別発言がきっかけで減給になったり降格処分になったりするケースもあります。だからこそ移民を巡る話題には、日本語で言う「腫れ物に触る」ような慎重さが求められるのです。
「それならば、もう何も触れないほうがいいのではないか」と、移民問題をタブー視する人も多いです。自らの思いや考えを口にできず、実際は見て見ぬふり。心の内にため込んだ結果、匿名のSNSの世界だけが過激になっていく……。これが、今のフランスで実際に起こっていることです。
筆者が「フランス社会を静かに分断しかねない」と記したのは、まさにこうした背景を踏まえてのことでした。移民という繊細なテーマに触れることを避ける姿勢こそが、かえって状況を複雑にし、対話の機会を遠ざけ移民子世代の暴徒化につながっている。自治体も行政もどこから手を付ければいいのか分からない……。フランスで暮らす筆者が肌で感じた現実は、思ったより解きほぐしがたく、痛みを伴うものでした。
日本も含め、現在の世界では移民問題が避けて通れない社会テーマになっています。フランスは規模的にも歴史的にも移民と深いかかわりを持つ国ですが、現在ではそれが「良いか悪いか」という段階を超え、「共に暮らす」という営みの本質が問われているように感じます。
この記事の筆者:大内 聖子 プロフィール
フランス在住のライター。日本で約10年間美容業界に携わり、インポートランジェリーブティックのバイヤーへ転身。パリ・コレクションへの出張を繰り返し、2018年5月にフランスへ移住。2019年からはフランス語、英語を生かした取材記事を多く手掛け、「パケトラ」「ELEMINIST」「キレイノート」など複数メディアで執筆を行う。