
映画.comでは3.8点やFilmarksでは4.0など、レビューサイトでの平均点は高く、絶対数としては絶賛の意見の方が多いのですが、映画ファンからの「合わない」といった拒否反応、あるいは「今年ワースト」という酷評も目立っているのです。
なぜ『片思い世界』がここまで好き嫌いが分かれるのか。まずは3つまでをネタバレなしで、4つ目以降は警告後にネタバレ全開で記してみます。筆者個人としては、『片思い世界』にははっきり否定的な立場であり、この記事でも批判が多くなることをご容赦ください。
1:ネタバレ厳禁要素そのものが賛否?
今回の『片思い世界』の大きな特徴の1つが、「重要な要素が伏せられている」ことです。公式Webサイトのあらすじや予告編では隠されている「秘密」が、劇中でサプライズとして機能していました。ただし、個人的には後述するように、その重要な要素の説得力がかなり欠けていることと、それに付随してセンシティブな事象についての「注意喚起」ができなくなっていることが問題だと思います。その「ネタバレ厳禁」の前提を踏まえて、良くも悪くも「思っていた内容とは違った」ことも賛否を呼ぶ理由でしょう。
ただ、映画公開から6日後の4月10日より、公式X(旧Twitter)ではその秘密が解禁されています。公式側から重要な要素をむしろアピールする方向へとシフトしたともいえますが、確かに何も知らないまま「種明かし」の瞬間に立ち会ってこそ、得難い映画体験ができたのは事実です。それを期待する人は、先に劇場に足を運んだほうがいいでしょう。
2:『花束みたいな恋をした』とは異なる路線
本作の目玉は、絶賛を浴びた『花束みたいな恋をした』の脚本・坂元裕二と監督・土井裕泰のコンビの最新作であることです。しかし、前述した隠された重要な要素のほか、後述するようにアニメ作品のようなエモーショナルな作劇や演出も目立っており、そちらとはかなり異なる作風になっていました。【関連記事】映画『花束みたいな恋をした』考察。2人は本当に「麦の就職」によってすれ違った? タイトルの意味は
『片思い世界』は、『花束』のように恋人同士のささいなすれ違いで物語が進むわけではない、そもそも恋愛が(物語を構成をする一要素ではあるものの)メインの内容でもないため、同じ路線を求める人にとっては、悪い意味で期待を裏切るものだったのかもしれません。
12日に公開されたMOVIE WALKER PRESSのインタビューで土井監督は「ヒットした作品のあとだと、同じ路線のものを期待されがちですが、なんとなく坂元さんからは『花束』の時とはまったく違う方向へ向かいたいという想いを感じていました」などと答えています。意図的にせよ「『片思い世界』は『花束』とはまったく異なる内容である」ことを踏まえて見たほうがいいでしょう。
3:アニメ的な文脈で作られている
本作は実写作品でありながら、「アニメっぽい」印象を持つ人が多くいます。前述した隠された要素のほか、「しっかり者の美咲」「真っ直ぐなさくら」「好奇心旺盛な優花」という3人の主人公のキャラクター付けなどが、その理由でしょう。坂元裕二は広瀬すず、清原果耶、杉咲花の3人に「当て書き」をしており、俳優それぞれの個性も生かされていて確かに魅力的ではあるのですが、性格や言動はやはりやや極端なため、悪い意味で現実離れしていると感じた人もいるようです。
実は、本作のアニメっぽさもまた意図的なものです。劇場パンフレットで、坂元裕二は「もっと強いストーリーを作らないといけない」と感じた理由について、「いまの日本の映像業界はアニメ作品に支えられて成立してますよね。実写作品はアニメが描いてるものから逃げずに、ちゃんと向き合うことを意識して作らないといけないんじゃないか」「多くのアニメには目的意識の強い設定と物語があって、実写もそこを明確にしないと、アニメと向き合うことにならない」と語っているのですから。
なるほど、終盤のエモーショナルな演出と作劇もまた、アニメらしい目的意識の強い設定と物語そのものだと納得もできるのですが……個人的にはその終盤の展開がまったく納得できない、物語として成立していないとさえ思えるほどのもので、「エモさ」が強調されればされるほど、かえって冷めてしまうという、とても残念なことになってしまいました。
また、実写ではやはり現実そのままが映される「リアル」なため、抽象的な表現が可能なアニメよりも、フィクションとして許容できるハードルが高いともいえます。もしかするとアニメではスルーできたかもしれない「引っ掛かり」が、実写作品ではより厳しく感じてしまった、ということかもしれません。
さて、ここからはネタバレ全開で、さらなる『片思い世界』が賛否両論を呼ぶ理由、個人的に決定的に「合わなかった」理由を記していきましょう。鑑賞後にお読みください。