ヒナタカの雑食系映画論 第158回

『ナタ 魔童の⼤暴れ』はなぜ最も売れたアニメ映画になったのか。見る前に知ってほしい3つのこと

アニメ映画世界歴代興行収入1位を樹立した中国のアニメ映画『ナタ 魔童の⼤暴れ』は、その評価もアニメ映画史上最高クラス。ここまでのメガヒットとなった理由と、事前に知ってほしい3つのことをまとめてみましょう。(画像出典:プロデュース&製作:可可⾖動画 彩条屋影業)

ナタ
『ナタ 魔童の⼤暴れ』 4⽉4⽇(⾦)より全国公開 配給:⾯⽩映画 プロデュース&製作:可可⾖動画 彩条屋影業
『ナタ 魔童の⼤暴れ』が日本で4月4日より劇場公開中。本作の何よりのトピックは、アニメ映画世界歴代興行収入1位ということです。

『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』も追い抜いた

あの『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』や『アナと雪の女王2』、さらに2024年にアニメ映画史上1位の記録を塗り替えた『インサイド・ヘッド2』をも上回り、3月15日時点で世界興行収入は150億1900万元(約3100億円)を突破して、実写映画の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を抜き、世界歴代興行収入ランキング5位となっているのです。
 

その興行収入のほとんどが、中国国内の売り上げによるものというのも脅威的。1月29日の公開からわずか3週間で国内の興行収入は119億5400万元にのぼり、その時点でそれまで中国国内で歴代1位だった『1950 鋼の第7中隊』(累計興行収入57億7500万元)の2倍以上にもなっていたのです。

海外でも中国系移民や中国にルーツを持つ人が劇場に多く訪れているようで、北米では3週連続トップ10入り、オーストラリアとニュージーランドでは過去20年間の中国語映画の最高上映記録を達成、この日本でも3月14日より先行公開された中国語・英語字幕版が9日間で興行収入1億円を突破しています。

メガヒットの理由は「圧倒的なクオリティー」や「愛国心」にある

誰もが気になるのは、この『ナタ』がなぜこれほどまでにメガヒットになったのか、ということでしょう。それは、作品としての圧倒的なクオリティーの高さ、とても間口の広いエンターテインメントであることに加えて、中国国内での「愛国心」が大きく影響していると思われます。
ナタ
プロデュース&製作:可可⾖動画 彩条屋影業
実は本作は「2作目」であり、2019年公開の前作『ナタ 魔童降臨』の時点で、中国のアニメ会社の力を結集させた3DCGのクオリティーがとてつもなく、アクロバティックな体術も繰り出されるアクションのド迫力ぶりには感嘆するばかりでした。
 

だからこそ、今回の続編への期待も大きかったのは間違いなく、実際に作品のスケールはさらに広がり、世界観の作り込みや、クライマックスのスペクタクルは、すさまじいという言葉でも足りないほど。その期待をはるかに上回っていたと言えるでしょう。

さらに、主人公およびタイトルにもなっている「ナタ」は、中国の有名な物語『封神演義』に登場するよく知られたキャラクターであり、そのほかの設定や世界観も大胆ながら、中国の文化や物語をリスペクトしています。
ナタ
プロデュース&製作:可可⾖動画 彩条屋影業
しかも、前作も今回も「親子愛」や「友情」など共感しやすい要素が多く、大筋の物語はエンタメ性が高く、子どもから大人まで楽しめる分かりやすいものでした。

後述もしますが、今作は世界で起こる問題のメタファーと思われる要素もあり、それを持って中国の「誇り」や「未来」をも喚起しているともいえるため、国民にとってはより「刺さる」ものだったのでしょう。

また、本国での宣伝手法はSNSでのショート動画、タイアップや街頭広告など日本でもよく見られるものですが、その「物量」が圧倒的で、例えば公式動画は1日に10本も公開されていたのだとか。

ともかく、自国のアニメ映画が「すごいことになっている」という評判が評判を呼び、中国国民の熱狂的な支持をさらに加速したと考えられるのです。
 
ナタ
プロデュース&製作:可可⾖動画 彩条屋影業
さらに、現在ではアメリカのレビューサービスIMDbでのスコアが8.2点、Rotten Tomatoesでの批評家支持率は95%を記録。興行面だけでなく評判もアニメ映画史上トップクラスになっているのです。

さて、ここからは見る前に知ってほしい3つのポイントについて語っていきましょう。日本ではほとんどの人にとって「続編から見る」ことになるのですが、それでも大きなスクリーンで見てほしい理由も併せて解説します。
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