今、学校ではどんな食品ロスが発生しているの?

「2015年の環境省の調査によると、1人の児童生徒が1年間に出す食品廃棄物の量は17.1kg。このうち7.1kgが食べ残し、調理の際に出る野菜の皮などの調理残さが5.6kgです。もちろん、ここには家庭での食事分は含まれていませんから、その量に驚く方もいるのではないでしょうか。食べ残しについては、やはり子どもたちが苦手な野菜、魚などが多い傾向にあるようです。
2015年以降は全国規模での調査はされていないようなので現在どのような数値となっているかは分かりませんが、SDGsに関わる教育課程などを通して積極的に食品ロスに向き合い、学校全体、もしくは自治体全体でこの数値の改善に取り組んでいる事例も少なくありません」
——昔は完食指導などもあり、苦手なものを長時間かけてでも残さず食べるよう指導された記憶もありますが、今はそのようなことは少ないのでしょうか。
「最近はそのような指導はあまり行われていないと思います。一人ひとりの食物アレルギーへの対応が求められているほか、かつての完食指導のせいで苦手を克服できなかった、会食がトラウマになってしまった大人がいることの反省から、一人ひとりが食べられる量を尊重して指導する傾向があるようです。
完食指導に関して、お茶の水女子大学の教授である赤松利恵先生は、ある調査で『小中学生の多くが、体調が悪くても給食を残さないように無理して食べる』と回答していたことをとても懸念されていました。決められた量を食べることを強制するのではなく『自分の身体の状態を考え、食べる量を調整するスキル』を身に付けさせることが重要だとも話しています。
こうしたことから、現在は給食の時間の前にその日の子どもの体調などを把握した上で、無理せず給食を楽しめるようにすることが求められていると思います。
あとは、そもそも『給食を食べる時間が少ない』ことも食べ残しの原因の1つと考えられています。子どもたちが食べる時間を確保する工夫をして、食品ロスを減らそうという動きもありますね」
季節によって味がちがう? 実は知らない学校給食の工夫
——調理や献立作成の段階で、食品ロスや食べ残し削減に向けた工夫はあるのでしょうか?「基本的なことで言えば、包丁ではなくピーラーなどで皮をむき、なるべく可食部を無駄にしないようにする、ブロッコリーなどは、これまで茎は捨てられることが多かったのですが、茎部分も使用するなどの工夫が行われています。
そのほかにも、夏は食欲が落ちてしまうので、ほかの時期よりも少し濃いめに味付けをするという工夫をしている学校もあります。また、栄養士が各教室を回って『自分が食べられる分だけよそってもらってね』などと声がけをし、一人ひとりが無理なく食べられるような環境づくりをしている栄養士さんもいらっしゃいます。
最近では、白いご飯が苦手な子どものために家庭からふりかけを持ってきてもよいというルールにしている学校もあります。調理段階でもさまざな工夫がされていますが、子ども一人ひとりが食べやすい食べ方により寛大になっているということですね」
各自治体によっては、給食がどのように作られているのか、ロスしてしまったものがどのように扱われているかなどをホームページで公開しています。今年度も多くの学校で始まる給食について、いつもとは違う面から注目してみるのもいいかもしれません。
プロフィール:井出 留美(いで・るみ)
株式会社office 3.11 代表取締役、ジャーナリスト。奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長を歴任し、食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞など受賞。
この記事の執筆者:大塚 ようこ
子ども向け雑誌や教育専門誌の編集、ベビー用品メーカーでの広報を経てフリーランス編集・ライターに。子育てや教育のトレンド、夫婦問題、ジェンダーなどを中心に幅広いテーマで取材・執筆を行っている。