フランス人は「家で靴を脱がない」は本当なのか。スリッパをすすめたら「大丈夫」と断られた理由

家の中で靴を脱がないとされる欧米の人々。実際にどこまで土足なのか、フランス在住の筆者がその暮らしの実態をお伝えします。

靴を「脱がない」人

フランスのリビング
フランスのリビングはタイル張りが多い
一方、靴を脱がない派も依然として多いフランス。というのも、フランスの家の多くは床がタイル張りです。玄関を上がるとすぐに畳やフローリングが広がる日本とは違い、フランスでは広範囲にわたってタイル張りが採用されています。一軒家では、これが1階のリビング・ダイニング、キッチン、トイレのすべてに及んでいることも。やはり靴を脱がないことを前提に設計されているのでしょう。

また、フランスでは家に招いた人々を手厚くもてなす習慣があります。その際は、足元もファッションの一部と考える人が多く、おしゃれをして訪ねてきてくれたゲストに「靴を脱いで」とお願いするのは、むしろ失礼にあたるのだそう。靴を脱いだら靴下に穴が開いているかもしれないし、足の臭いを気にさせてしまうかもしれない……。そんな理由で、ゲストに気を配っているという人も!

もちろん、フランスの「床に座らない文化」も関係しています。日本をはじめとするアジア諸国では、床に直接座る習慣があるため、靴を脱ぎ、床を清潔に保ちます。しかし、フランスを含む欧米諸国では基本的にソファや椅子に座るため、靴を履いたままでも気にならないのです。

こうした「靴を脱がない派」のフランス人は、ゲストが外靴のままトイレを使用するのもOK。寝室やバスルームまではさすがに人によりますが、ゲストを招く場合は、かなり寛容な人が多いイメージです。

脱いでも脱がなくても「どちらでも良い」人々

フランスのアパートの玄関
筆者の自宅も玄関に靴を脱ぐスペースがありません
さて、最も多いのが「自分は靴を脱いでいるけれど、ケースバイケースで靴のままでもOK」というフランス人です。

彼らが土足でも構わないとするのは、目上の人や工事関係者、引っ越し業者などが訪れたとき。例えば、フランスの年配の人は昔から靴を脱ぐ習慣がないため、ホームパーティーのゲストと同じく、「靴を脱いでください」とお願いするのは少し失礼にあたります。

業者の人にスリッパに履き替えてもらうことも、フランスの硬い床では足元が安定しない(滑ってしまう)可能性があり、あまり一般的ではありません。

筆者としても目上のフランス人が自宅に遊びに来た際に、スリッパを用意して「良かったらどうぞ」とやんわり伝えたことがあるのですが、「(靴が)汚れていないから大丈夫」と断られてしまった経験があります。

100%玄関で靴を脱ぐのが当たり前の日本とは違い、フランスでは状況に応じた柔軟な対応や、相手に対するリスペクトが必要なのだと感じた瞬間でした。このリスペクトは日本の靴を脱いで示すリスペクトとは逆になってしまいますが……。

土足NGが増えつつあるフランス

パリのTATANI(畳)カフェにて
パリで新オープンしたTATAMI(畳)カフェにて
しかし、冒頭でも述べたように、靴を脱ぐ文化はパリを中心に少しずつ広まっています。最近では、パリで初となる畳のカフェも登場しました。靴を脱いでそろえるところまでは根付いていないようですが、こうしたアジア由来の文化がSNSを通じてかなり浸透してきたなと感じます。

一方で玄関に靴を脱ぐスペースがないことは、日本人にとってちょっと不快かもしれません。掃除をしていても玄関周りが1番汚れていますし、雨の日には周囲がびしょ濡れになってしまいます。

そんな場所をスリッパも履かずに裸足でトコトコ歩くフランス人もかなり多いので、土足NGとはいえ文化の違いを感じています。

この記事の筆者:大内 聖子 プロフィール
フランス在住のライター。日本で約10年間美容業界に携わり、インポートランジェリーブティックのバイヤーへ転身。パリ・コレクションへの出張を繰り返し、2018年5月にフランスへ移住。2019年からはフランス語、英語を生かした取材記事を多く手掛け、「パケトラ」「ELEMINIST」「キレイノート」など複数メディアで執筆を行う。
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