ヒナタカの雑食系映画論 第152回

アカデミー賞有力『ANORA アノーラ』が、“R18+指定”映画史上最も万人に勧められる理由

アカデミー賞で6部門にノミネートされている『ANORA アノーラ』は「アンチ・シンデレラストーリー」と銘打たれた理由がある、とんでもなく面白い映画でした! R18+指定が設定された映画史上、最も万人におすすめできる理由と魅力を記しましょう。(※画像出典:(C) 2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. (C) Universal Pictures)

アノーラ
『ANORA アノーラ』 2025年2月28日(金)全国ロードショー 配給:ビターズ・エンド ユニバーサル映画 (C) 2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. (C) Universal Pictures
第97回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、脚本賞、編集賞と6部門にノミネートされている映画『ANORA アノーラ』が公開中です。

結論から申し上げれば……本作はめちゃくちゃ面白い! アート性の強い作品が候補になりやすいアカデミー賞ノミネート作品の中では、エンタメ性が極限にまで高い内容と言えますし、筆者個人としては2025年の暫定ベスト1の大傑作でした。

公式Webサイトに掲載されている「約束されたハッピーエンドなんて存在しない。物語は自分で作るしかない。21世紀の“アンチ・シンデレラストーリー”はちょっとビターで最高に刺激的」という触れ込みはなかなか挑戦的に見えますが、その言葉にうそ偽りはありません。
 

大笑いした先に涙もあふれる、ジェットコースターのように辛辣(しんらつ)なラブコメディーを求める人に大推薦します。その魅力を5つのポイントに分けて紹介しましょう。

1:R18+指定映画の入門にもおすすめ!

唯一気を付けなければならないのは「極めて刺激の強い性愛描写がみられる」という理由でR18+指定がされていることです。ただ、筆者の主観ではありますが、その性描写は「あっけらかん」としており、ストレートかつ大っぴらに描かれている、もはや清々しささえ感じられるものでした。
アノーラ
(C) 2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. (C) Universal Pictures
少なくとも過度に嫌悪感を抱かされるような性描写ではないですし、その割合も少ないため、R18+という高いレーティングにはそれほど身構えなくても大丈夫だと思います。本作はR18+指定がされた映画の入門にもおすすめしたい、いや(もちろんレーティングを乗り越えられる人にとって)R18+指定の映画史上最も万人に推薦できると思えたほどでした。
アノーラ
(C) 2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. (C) Universal Pictures
また、個人的に大笑いしたのは「御曹司の青年がセックスの直前にでんぐり返しをするほどにウキウキしている」様でした。後述もするように(ブラックな)コメディー色が強い内容であり、R18+うんぬんよりも「笑って楽しめるエンタメ」かつ感動のドラマでもあることを期待して見るのがいいでしょう。なお、暴力を振るう場面はわずかにあれど、それ以外で残酷な描写はありません。

2:パリピな生活からの急転直下! 意地悪だけど面白い

本作の物語はシンプルそのもの。ストリップダンサーの女性がロシアの御曹司とぜいたくざんまいの日々を過ごした矢先に勢いで結婚し、御曹司の両親がその結婚に激怒して屈強な男たちを送り込んでくる、というものなのですから。
アノーラ
(C) 2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. (C) Universal Pictures
主人公のアノーラと、御曹司のイヴァンは「7日間で1万5000ドルの契約」を交わしており、最初は「お金で買った」関係のはずでした。仲間とのパーティーにショッピング、2人でのセックスにも明け暮れる彼らの生活は「パリピ」とも言えるもの。金にモノを言わせた遊び方にはイラッとする気もしますが、それがもはや「気持ちがいい」ほどの盛大さで描かれており、「そのノリのまま(あるいは本当に恋心が芽生えて)勢いで結婚」という流れにも爽快さがあり、「もう君たちはそれでいいよ!」と思えるほどでした。
アノーラ
(C) 2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. (C) Universal Pictures
そして、この映画が真に面白くなるのはここから。具体的な展開は言わないでおきますが、さっきまでの「ウェーイ!」な日々とのギャップを感じさせる状況によって、観客もアノーラと同じように「なんでこんなことに……!?」と思ってしまうでしょう。「幸せの絶頂から叩き落とす」という、ある意味ではとても意地悪な作劇が続くわけですが、そんな大騒動こそがエンタメ性に満ちていて、ジェットコースターのように「悪い冗談」がエスカレートしたり、はたまた「八方ふさがり」な状況がブラックな笑いへとつながったりしていくのです。
アノーラ
(C) 2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. (C) Universal Pictures
「アンチ・シンデレラストーリー」と銘打たれた理由もまさにそこにあり、「お金持ちの青年と結婚して玉の輿でハッピーエンド……になるわけないだろ!」といった方向性を突っ走っているのです。やっぱり意地悪だ……と思う反面、それが決しておとぎ話の単純な「逆張り」や露悪的な表現にとどまらない、ある意味では「世の中やお金持ちってこんなもんだよね」という本質をついていました。かつ、それが後述する感動のドラマにもつながっていることが重要だったのです。
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