1人で成し遂げたとでも? 仕事をする者として「あり得ない」
筆者は過去、日本パブリックリレーションズ協会が発行した『広報の仕掛け人たち PRのプロフェッショナルはどう動いたか』(宣伝会議)という本の編集をお手伝いしたことがある。そこで、さまざまなPRのプロから、彼らが立案した戦略PRの事例について話を聞いたが、全てのPRマンたちが「クライアントからの評価や感謝のコメント」に言及して、そこを繰り返し強調した。もちろん、クライアントの承諾がなければ、このような成功事例を語ることができないということもあるが、そもそもPRという仕事自体がクライアントの依頼なくてはできないからだ。
だから当然、PRパーソンが自分がやった仕事を語る際には、クライアントが登場する。そして、これはどんな仕事にもいえることだが、PRも「1人でやれることなど限られている」ため、チームへの感謝の言葉も出てくる。
例えば、企業がPR会社にSNS戦略やアカウントの運用を依頼したとしよう。しかし実際には、依頼したからといって、企業は「丸投げ」するわけではない。PR会社側が出してきた戦略について、企業側の担当者は社内調整や根回し、実行に移すまでの段取りをしなくてはいけない。運用がスタートしたら、社内に報告をして、改善点などを見つけるのも企業側担当者が行う。
そんな中でPR会社側が自社のホームページやブログで「この企業のSNS戦略は全て私たちがやっています」などど喧伝(けんでん)したらどうか。守秘義務違反はもちろん、仕事をする者として「あり得ない」のではないか。
今回のPR会社社長の投稿は、そのように実際にPRを生業としている者からすれば「あり得ない」ことのオンパレードだ。正直、きちんと契約を結んで業務を受けたPRパーソンの立ち振る舞いとは思えない。そこで「この人、本当に仕事を請け負ったの?」と疑われてしまうのだ。
「全て任された」と自分に都合よく解釈した?
もちろん、現時点でそのあたりについての事実は明らかになっていない。ただ、今回のケースで1つだけ言えるのは「承認欲求の強い人」というのは、「顧客」や「チーム」を軽視しがちということだ。厳しい表現を使うと、「自分1人で仕事をしている気になっている」。このようなタイプの人のトラブルに多いのは、顧客や取引先などの相手の話を、自分に都合のいいように解釈するということだ。
これはあくまで筆者の推測だが、今回のPR会社社長の「選挙におけるSNS・広報戦略を全て任された」というのも、実はこれが関係しているのではないかと思っている。