ここがヘンだよ、ニッポン企業 第34回

「あれは全て私がやりました!」 わが社の“承認欲求モンスター”をどう扱うべきか?

兵庫県知事選におけるPR会社社長の炎上騒動が尾を引いている。なぜ彼女はあのような投稿をしてしまったのだろうか。“承認欲求強めな人”にありがちな物事の解釈の仕方を見ていこう。(画像:PR会社社長のInstagramを一部加工)

1人で成し遂げたとでも? 仕事をする者として「あり得ない」

筆者は過去、日本パブリックリレーションズ協会が発行した『広報の仕掛け人たち PRのプロフェッショナルはどう動いたか』(宣伝会議)という本の編集をお手伝いしたことがある。そこで、さまざまなPRのプロから、彼らが立案した戦略PRの事例について話を聞いたが、全てのPRマンたちが「クライアントからの評価や感謝のコメント」に言及して、そこを繰り返し強調した。
 
もちろん、クライアントの承諾がなければ、このような成功事例を語ることができないということもあるが、そもそもPRという仕事自体がクライアントの依頼なくてはできないからだ。
 
だから当然、PRパーソンが自分がやった仕事を語る際には、クライアントが登場する。そして、これはどんな仕事にもいえることだが、PRも「1人でやれることなど限られている」ため、チームへの感謝の言葉も出てくる。

例えば、企業がPR会社にSNS戦略やアカウントの運用を依頼したとしよう。しかし実際には、依頼したからといって、企業は「丸投げ」するわけではない。PR会社側が出してきた戦略について、企業側の担当者は社内調整や根回し、実行に移すまでの段取りをしなくてはいけない。運用がスタートしたら、社内に報告をして、改善点などを見つけるのも企業側担当者が行う。
 
そんな中でPR会社側が自社のホームページやブログで「この企業のSNS戦略は全て私たちがやっています」などど喧伝(けんでん)したらどうか。守秘義務違反はもちろん、仕事をする者として「あり得ない」のではないか。

今回のPR会社社長の投稿は、そのように実際にPRを生業としている者からすれば「あり得ない」ことのオンパレードだ。正直、きちんと契約を結んで業務を受けたPRパーソンの立ち振る舞いとは思えない。そこで「この人、本当に仕事を請け負ったの?」と疑われてしまうのだ。

「全て任された」と自分に都合よく解釈した?

もちろん、現時点でそのあたりについての事実は明らかになっていない。ただ、今回のケースで1つだけ言えるのは「承認欲求の強い人」というのは、「顧客」や「チーム」を軽視しがちということだ。厳しい表現を使うと、「自分1人で仕事をしている気になっている」。
 
このようなタイプの人のトラブルに多いのは、顧客や取引先などの相手の話を、自分に都合のいいように解釈するということだ。
 
これはあくまで筆者の推測だが、今回のPR会社社長の「選挙におけるSNS・広報戦略を全て任された」というのも、実はこれが関係しているのではないかと思っている。
次ページ
選挙後に「私が当選させた」と吹聴する人が続出する理由
Lineで送る Facebookでシェア
はてなブックマークに追加

連載バックナンバー

Pick up

注目の連載

  • ここがヘンだよ、ニッポン企業

    「あれは全て私がやりました!」 わが社の“承認欲求モンスター”をどう扱うべきか?

  • ヒナタカの雑食系映画論

    実写ドラマ版『【推しの子】』絶賛レビュー! 齋藤飛鳥が完璧で究極の「星野アイ」だった理由

  • 世界を知れば日本が見える

    「民主主義の崩壊」兵庫県知事選、なぜ“陰謀論”が広まったのか。日本が「選挙×SNS」を対策できないワケ

  • 恵比寿始発「鉄道雑学ニュース」

    静岡の名所をぐるり。東海道新幹線と在来線で巡る、「富士山」絶景ビュースポットの旅