【前回の記事「相次ぐ年末年始の『K-POPアワード』で悩む“推し活費用”のバランス」(#42)はこちら】
なぜ韓国ではなく海外、それも日本なのか
ゆりこ:2000年代のMAMAの前身となるアワードは韓国でしたが、2010年代は主に香港で開催していました。意外でしょう。
矢野:なぜ香港? という感じですね。日本よりもK-POP市場が大きいとも思えません。
ゆりこ:理由は2つあるといわれています。まずは「アジア規模のお祭りである」というブランディングのため。MAMAとはMnet ASIAN MUSIC AWARDSの略称です。前身となるアワードには「ASIAN」というワードが入っていませんでしたが、2009年に改名した際に加わりました。2009年といえば東方神起やBIGBANG、少女時代など第2世代の全盛期です。
矢野:ちょうどK-POPが日本をはじめとするアジア圏で爆発的に売れ出したタイミングとも重なる。
ゆりこ:そうなんです。そしてなぜ香港だったのかについては、一説としてチャイナマネー獲得を目的としていたとも。
矢野:中華圏のスポンサー……莫大なお金がチラつきます。そこからなぜ日本へ? という疑問。
K-POPの大型イベント会場として「日本」が選ばれる理由
ゆりこ:2016年の中国による「限韓令(※1)」の影響も少なからずあったのではないでしょうか。2016年はまだ香港開催ですが、メインスポンサーから中国企業が外れました。2017年も一部香港で開催されていますが、同時にベトナム、日本でも開催し始めたんです。振り返ると“脱・中華圏”が始まっていました。2022年からは日本での開催が続いています。(※2)※1:2016年に韓国と米国の在韓米軍THAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備に対して中国政府が「報復措置」の一環として行ったといわれている韓国関連の取引を制限するもの(中国政府は認めていない)
※2:2024年はアメリカ・LAでも実施
矢野:香港や中国の情勢や政治は先が読めない部分も大きい。一方日本はK-POP人気も強固で安定していますし、なんといっても音楽の一大市場です。
ゆりこ:冒頭のご質問「なぜ韓国ではなく日本なのか」の答えも、そこにあると思います。チャイナマネーほど莫大ではないかもしれないけれど、まだまだ外貨獲得には悪くない市場です。韓国国内だとスポンサーになりうる企業の数も限られます。そして「海外にも通ずるアワードである」というブランディングも成り立つ。
矢野:日本は世界の音楽市場でも2位といわれるほど大きなマーケット。そんな国で大型イベントを開催するとなれば、ゆりこさんの言う「海外にも通ずるアワードである」というブランディングは十分に達成されるのではないでしょうか。
ゆりこ:あと現実問題として、韓国に大人数を収容できる会場が少ないということもあります。ソウル最大級の会場「コチョクスカイドーム」も座席数は1万8000席。ステージ設置を考えると立ち見席を採り入れても収容人数は最大2万人程度です。仁川に新設されたインスパイア・アリーナにも行ったことがありますが、代々木競技場や大阪城ホール、ポートメッセなごや、マリンメッセ福岡の規模。
矢野:首都圏だけではなく地方都市にもドームなど大規模会場があるのが日本の特徴だと思います。韓国より広い場所でダイナミックな演出と集客ができる、というのも日本開催のメリットなのかもしれません。
ゆりこ:一方でチケットをたくさん売らないと、かなり悲惨な結果になるということでもあります。
矢野:ここからがある意味、「本題」かもしれません。この大型K-POPイベントをテーマに取り上げたいと思ったきっかけが、あるニュースだったのです。今年大阪で開催された某K-POPイベントが「空席だらけでガラガラだった」というものでした。